限界ギリギリで疾走するレーサーたち、手に汗握る展開。
競輪、オートレースは、レース場の内外で様々なドラマを生み出している。
だが、人々に娯楽と興奮を提供するだけでなく、生活を陰ながら支えている存在であることをご存じだろうか? それが機械振興、公益事業振興を目的とした「補助事業」だ。今回、この耳慣れない補助事業についてDIME編集長・石﨑が競輪、オートレースを運営する公益財団法人JKAの補助事業部次長の和泉宗之氏に話を伺った。
JKAが進める「補助事業」とは?
石﨑 私が住んでいるエリアの近くにもオートレース場があって、たまに行きますが広くて雰囲気も良くて散歩だけでも楽しいんですよね。まずは競輪、オートレースを支える存在であるJKAに関して教えてください。
和泉 JKAは競輪やオートレースの運営を担う公益財団法人です。競輪選手は男性が約2400名、女性約200名、そして全国にはレース場が43場あり、1年間の延べ開催日数が約2690日、約2万6000レースが行われています。朝8時半に発走する「モーニング競輪」や、21時から23時30分の間に行われる「ミッドナイト競輪」の人気もあり、売上は約1兆円超になります。
オートレース選手は男性が約380名、女性20名。レース場は5場、年間延べ約700日開催されており、約7500レースが行われています。こちらの売上は約1千億円です。
また働く関係者となると、先の選手のほか、売り場、清掃の方、あと主催となる地方自治体の方……約1万5000名は関わっているんじゃないでしょうか。
公益財団法人 JKA 補助事業部 次長 兼 補助事業部 補助事業企画課長事務取扱
和泉 宗之さん
石﨑 そんなに! 想像以上の数字に驚いてしまいました。あらためて人気の凄さを実感させられます。では、今回のテーマであるJKAが行っている補助事業についてなのですが、競輪やオートレースの売上を原資に補助事業をされているんですか?
和泉 そうです。機械振興と公益事業振興につながる補助=資金援助を行っています。その内容の前になぜ、JKAが補助事業をしているのかを説明させてください。実は戦後にまで話が遡るんです。
石﨑 そこまで遡るんですか!
和泉 今でこそいろんなスポーツ競技や娯楽がありますが、戦後はまだまだその数は乏しかった。とはいえ、いや、だからこそスポーツ競技に熱狂するファンも多くいたそうなんです。その中の一つに自転車競技も含まれていました。ですが、今みたいにレース場の整備はきちんとされておらず、スポーツベッティングみたいなものもありませんでした。そこで、さらに競技として盛り上げるためだけでなく、社会貢献を前提に自転車競技をギャンブルの対象にしてもいいという法律、競輪の「自転車競技法」(昭和23年)、オートレースの「小型自動車競走法」(昭和25年)が施行されることになったんです。
石﨑 収益が多く出ているから慈善事業として補助事業を行おうというわけではないんですね。
和泉 そうです。そもそも機械振興と公益事業振興による社会貢献=補助事業を行うための競輪、オートレースなんです。
意外と身近にある補助事業の社会貢献
石﨑 その補助事業は主にどんなことが行われているんですか?
和泉 機械振興と社会福祉を含めた公益事業振興ということで、本当に多岐に渡るんです。皆さんが目にしたことがありそうなものでは、様々な機器を積み込んだ循環医療に使われている検診車両でしょうか。
石﨑 車内でレントゲンを撮ったりできて健康診断に使われている車両ですか? だったら先日、会社に来てました(笑)。
和泉 そうです。よく見ると競輪・オートレースのロゴが入っていたかもしれません。あとは特別養護老人ホームなどで使われている入浴設備や福祉車両とかでしょうか。
石﨑 そういった医療・福祉関連が多いんですね。
和泉 それだけでなく様々な研究に対する補助も行っています。ただ、機械振興という点から理学工学系のものが多いです。今年度のものだと「複合防食層の自己修復性評価とこれによるAI材料の長寿命化補助事業」「ナノポーラス半導体材料を用いたリチウムイオン電池の負極の開発補助事業」などがあります。ほんの一例ですが。
石﨑 聞いても何のことだかわからないです(笑)。ただ理系の企業・団体の方が補助対象に選ばれやすそうですね。
和泉 本来ならいろんな方から申請をしてもらいたいのですが、企業からの申請は基本的に受け付けていません。そして研究への補助については、大学などで研究を行っている個人からのものを対象にしています。
石﨑 DIMEからも何か企画を申請できればと企んでいたのですが、難しそうですね(笑)
今年、補助事業が注力する分野は?
石﨑 他にはどんな申請があるんですか?
和泉 金属がどれくらい伸びるのか、製品の強度や耐荷重などの試験をサポートする施設が各自治体にあるんですが、実はそこの設備などもJKAの補助の対象になっています。ただ、JKAがこういった補助事業をやっていることを知らない方も多く、活用してもらうために全国を周るのも我々の仕事となっています。
石﨑 採択のための事務作業、その上、全国各地を周る……仕事内容が多岐ですね。その苦労が増えることにはなりますが、研究を進める方にはぜひ知っておいてもらいたい、活用してもらいたい事業ですよね。
和泉 募集するテーマは社会情勢を鑑みながら毎年変わるんですが、福祉関係の申請の増加を中心に、ここ数年、申請数がすごく増えてきています。それに合わせて募集期間はこれまで年1回だったのですが、次年度から年2回に増やすなどでの対応も進めています。2025年度の申請は7月1日から始まっています。ぜひご応募いただき、活用をしてほしいです。そのための競輪・オートレースなのですから。(詳細はHP)。
石﨑 なんだか競輪やオートレースの見方ががらっと変わりました。これからは補助事業の成果などにも注目しつつ、自分も社会貢献の一翼を担っているという意識をもってレースを楽しんでいきたいと思います。今日はありがとうございました!
取材・文/武内慎司 撮影/篠田麦也