推し活が宗教的になっている一方で、実は「宗教の推し活化」も進んでいるという。
「推し活は消費社会の宗教だと思っていますが、同時に20世紀後半くらいから、宗教全体の推し活化も進んでいるんです。推しの誕生日にバースデーケーキを作る人がいますよね。直接相手にあげるのではなく、実際にそこにいるかのように何かを作って一緒に食べる。現代のキリスト教徒を研究していて驚いたのは、熱心なキリスト教徒右派の方は、『イエスとコーヒーを飲んで話をする』ということをやっているんです。多くの人がイメージする宗教は、礼拝堂で祈るようなものでしょうが、彼らは見えないものをリアルに感じるために、推し活と似たようなことをしています。超越的な「神」が私たちを監視したり罰したりするのではなく、自分が親しみを覚えて、愛情を与えて、向こうも私たちを愛してくれる存在になっているんです。社会学の分野では『ナルシシズム』とも言われますが『自己愛が循環している』ような文化が増えているとも言えるでしょう」
推し活には、ウェルビーイングに繋がる側面がありながらも、同時に危険なものもあると柳澤先生は警鐘を鳴らす。
「1950年代、テレビがアメリカの世帯に行きわたり、人々がテレビの中の実際に会ったことがない相手に対して、会ったことがある人以上の親近感を抱くようになる現象がありました。それは『パラソーシャル』と呼ばれています。今、1日のうちで私たちが家族などの身近な人と関わる時間が減っている一方で、ストリーミングやSNSで何かを見ている時間は長くなってきています。費やしている時間からいっても、おそらく虚構が非現実だと言えなくなってきており、ひとりひとりが全く違う現実を見ているとさえ思うんです。2016年にポスト・トゥルース時代の到来と言われて久しいですが、私は推し活によって『可能性や時間が吸い取られてしまうこと』を危惧しています。何かを神聖視する心理は、経済的な価値を超える価値(=神聖さ)を見出すことにつながり、あらゆる文化や芸術の基盤となるものです。だからこそ、それらの才能を全部、推し活という消費活動の枠の中に押し込んでしまうのは残念です。消費以外の追求方法があることにも、目を向けてほしいですね」
推し活を理解するためのKeyword【パラソーシャル関係】
テレビに登場するキャラクターと親密な関係を築くようになる現象を、社会学者ドナルド・ホートンは「パラソーシャル」と呼んだ。SNSの存在が当然になった現代において、その現象が加速している。
推しがいる人も信者も推しや神をリアルに感じたい
神や推しを神聖視し、それらの対象をリアルに感じるための行動が行なわれる点で、「宗教」と「推し活」は構造的に類似している。それらは、外から見たら〝ごっこ遊び〟のようにも見える。
取材・文/久我裕紀
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