ある対象を熱狂的に推す行為は、まるで何かを信仰しているようにも見える。宗教学の専門家に、推し活と宗教の類似点、神聖視することで生じる問題について話を聞いた。
【問】推し活と宗教は似ているのか
【解】
推しを「神」と呼び、ファン同士の対立を「宗教戦争」と呼ぶ。
まさに消費社会の宗教である
関西学院大学
神学部 准教授
柳澤田実さん
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻修士課程修了(学術博士)。宗教学・キリスト教思想を専門としており、英語圏のファンダムカルチャーにも造詣が深い。
「推しの宗教化」、そして「宗教の推し活化」が同時に進行
宗教学の専門家・柳澤田実先生は推し活と宗教の類似性について次のように話す。
「私は神学部という独特な場所にいますが、少し前から『オタクカルチャーを研究したい』という学生が一定数います。私自身は当初、そういった世界をよく知らなかったのですが、学生はオタクがかなり『宗教的』だと言っていて、研究を手伝う中で、確かに宗教的な役割を果たしていると感じるようになったんです。彼らは、アイドルを『神』と呼び、チケットを手にするために『徳を積む』、ファン同士の争いを『宗教戦争』と言い、グッズやアクスタを飾る棚を『祭壇』と呼んでいます。学問的な文脈で言うと、宗教学者ミルチャ・エリアーデがイニシエーション(通過儀礼)の研究の中で、『現代人は、満たされない宗教的な願望を消費文化の中で満たしている』という趣旨の主張をしています。中世の騎士物語をベースにした通過儀礼物語のことですが、現代では『ドラゴンクエスト』のような「少年が特別な試練を経て英雄になる」という物語として、RPGや映画などのポップカルチャーへと展開しています。宗教と文化に共通項があるという見方ですね。
また、ターニャ・ラーマンという人類学者は、『信仰や宗教の中で目に見えない存在をリアルだと感じるプロセスと、ファンがいろいろな創作物のキャラクターをリアルに感じていく過程は非常に似ている』と、観察から分析しています」