DIME MAGAZINE
クロスプラス株式会社が、2022年9月に発売を開始した軽失禁に対応した男性用パンツ『KEEP GUARD』。発売開始から1年半で5万5000枚以上を売り上げた大ヒット商品だが、誕生のきっかけは、ある女性社員の一言だったという。
今回は、『KEEP GUARD』の開発に携わった同社ライフスタイル事業部 ライフスタイルDIV長 菊池武行さんに、商品誕生の経緯や、込められた想い、今後の展望などについてお話を聞いた。
＊本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
「世の中のおじさんを救いたい！」の一言から開発がスタート
一見、普通のボクサーパンツに見える『KEEP GUARD』。製品の特徴について、菊池さんはこう話す。
「2022年9月に、『軽失禁対策パンツ』として発売をした製品です。いわゆる尿漏れパンツと言われるカテゴリーのもので、現在は7シリーズを展開しています。パンツの裏側にポイントがありまして、前側部分がメッシュ素材になっているんです。そこに吸水機能を持たせています。ここが、一般的なパンツとの大きな違いです」
「男性の尿漏れ」という悩みに焦点を当てた同製品は、企画会議での女性デザイナーの一言から開発がスタートしたという。
「企画会議の中で、デザイナーの女性社員が開口一番『世の中のおじさんを救いたい！』と言ったんです。はじめは驚きましたが、詳細を聞いてみると、前の部署でマタニティウェアに携わっていたことから、授乳パッドやショーツなどの吸水素材のノウハウを持っていて、おじさんを救うためにそれを使えるのではないかと、彼女なりにリサーチをしていたようです。話を聞いていると理にかなってこと、挑戦しやすい企業文化であったことから、『やってみよう』と開発が始まりました」
その後、女性社員自ら社内でヒアリングを実施。想像以上に尿漏れで困っている方が多いことに気づいたという。
「女性であれば不織布シートやサニタリーボックスは身近なものですが、男性はそうではありません。交換できる紙や不織布を採用して進めたところで、なかなか定着しないだろうと思いました。それよりも、我々の基幹事業であるアパレルの強みを生かして、見た目も違和感がないボクサータイプで布を使った製品にしようと決めたんです」
誰にでも起こりうる「尿漏れ」の対策をポジティブに考えた商品
『KEEP GUARD』は、「おじテック（R）」という言葉を冠しているが、その背景には、ポジティブな商品にしたいという想いが込められているという。
「フェムテックという市場はすでにありましたが、男性の尿漏れというと、どうしてもネガティブなマーケットになってしまうため、それをポジティブに変えていきたかったんです。誰にでも起こりうることですし、それに対して悩みを持つのは当たり前だと思うんです。だからこそ、とっつきやすいキャッチーなネーミングを考えました」
こうして『KEEP GUARD』の開発がスタートしたが、一番時間を費やしたのはこれまでにない商品の「打ち出し方」を考える部分だったと、菊池さんは振り返る。
「当社はアパレルメーカーということもあり、プロトタイプは1か月ほどで完成しました。それと並行して試し穿きをしたり市場調査を行なったりして、どのようにこの製品を打ち出すべきかを考えていったんです。市場調査で、小売店さんがそういった製品を取り扱っていないことがわかり、サンプルを持って『これから必要な製品です』と動機付けをしながら、バイヤーさんとも幾度となく議論をしました。カテゴリーがないものをどこに置くのかという部分は、とても苦労しましたね」
お客様の羞恥心を拭うための施策
こうした苦労を経て発売に至った『KEEP GUARD』だが、実は発売後すぐにヒット商品になったわけではなかった。
「僕らは『絶対にいける』という気持ちで送り出して、最初から即完するだろうと思っていました。ところが、まさかのスロースタート。どうしてこの乖離が生まれたかを分析し、修正をしていきました。『ネガティブをポジティブに』と考えていたものの、実際にお客様が商品を購入する際、尿漏れ対策用の商品であることがわかると、羞恥心という点でご迷惑をおかけしているのではないかと考えたんです。一方で、尿漏れに対応した商品であることも、しっかりと伝えなければいけません。そこで少しずつパッケージをアップデートしていき、剥がせるシールで『漏れをガード』と伝える工夫をしました。それ以外にも、小売店さんのトイレにシールを貼らせていただくなど、さまざまな施策を行ないましたね」
企画担当だけではなく、販売を行なう営業部門やEC部門からもさまざまなアイデアが集まり、徐々に認知が高まって大ヒットに繋がった。現在では、ドラックストアでも購入できる。
「ドラッグストアさんや全国の小売店さんで一番取り扱っていただいているのが、パウチタイプです。プレミアムラインのボックスタイプは、型紙を見直し、よりスタイリッシュなデザインを採用しています。素材も従来品に対してより肌馴染みの良いものを選定しました」
おじテック第二弾は 「乳首透け防止Tシャツ」
アパレルメーカーが作るパンツということもあり、さまざまな柄やカラーを取り入れている点も、『KEEP GUARD』の特徴の一つ。さらに、今後は女性向けの製品も販売予定だという。
「やはり一番買っていただいているのは黒ですが、アパレルメーカーとして需要を喚起したいという思いから、シーズンごとにさまざまな色や柄を展開しています。また、春夏向けのドライタイプや秋冬用のウォームタイプ、継ぎ目のないシームレスタイプも販売しています。おじテックからスタートましたが、今後は女性用の尿漏れパンツも発売する予定です。元々、フェムテック商品の中に経血対応の吸水ショーツはありましたが、『尿漏れ』を訴求したものがなかったんです。我々の強みを生かしながら、そういった分野にも展開していきたいですね」
さらに、第二弾の新商品として「乳首透け防止Tシャツ」も販売されている。
「おじテックに立ち返って、おじさんのお悩み解決品をこれからも拡大していこうと考えています。既に発売しているもので言うと、同じデザイナーが『おじさんの乳首を隠したい』と考案したシャツも販売しています。チェストの部分にメッシュ生地を採用し、乳首が透けにくくしているんです」
最後に、今回の商品開発を通じて学んだこと、今後の展望について、菊池さんはこう語る。
「まだまだ発展途上ではありますが、『KEEP GUARD』は一つの成功体験になりました。企画から販売チームにバトンを渡すまでのモデルができた点も収穫です。どうしても今の時代、商品ができっている感は否めませんが、今後も人のお悩みに注目して、それらを解決する企画、商品開発を行なっていきたいですね」
取材／DIME編集部 文／久我裕紀
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