アニメーションが会社の成長を後押しする起爆剤となっています。
今年公開された東宝「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」は興行収入150億円を突破。同じく東宝の「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」も110億円を超えました。松竹の「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」は50億円近く稼ぎ出しています。
大手配給会社はアニメーションの制作に力を入れていますが、最近では新興勢力のヒット作が目立ちます。
©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会
国内外のアニメファンを魅了
2024年の劇場アニメを語る上で外せないのが「ルックバック」。6月28日に公開され、興行収入は10億円を超えました。人気コミック「チェンソーマン」の作者である藤本タツキ氏の原作を映画化したもの。注目度の高い作品ではありましたが、人気連載のアニメ化ではありません。特定のキャラクターにファンがいる作品とも一線を画します。作家性の強い内容です。
この映画の配給を行っているのがエイベックス。これまで、アニメ映画では「えいがのおそ松さん」や「KING OF PRISM Shiny Seven Stars」など、女性向けの作品に強みを持っていました。「ルックバック」のヒットで新境地を開いたように見えます。
2024年3月期のアニメ・映像事業の売上高は前期比5.7%増の161億円。エイベックスは2022年3月に公開した実写版映画「おそ松さん」が興行収入16億円突破のヒットを飛ばしています。2024年3月期は動画配信サービスなどにコンテンツを提供するノンパッケージの売上が1.2倍に拡大するなど好調でした。
エイベックスは2023年8月に組織再編を実施しています。アニメ・映像事業を統括するエイベックス・ピクチャーズを中間持株会社に位置づけたのです。権限を委譲することで意思決定のスピードを上げ、予算配分の最適化などを図ることができます。IP創出に向けた新体制を構築しました。
2023年4月に放映を開始したTVアニメ「天国大魔境」は、海外のアニメランキングで1位を獲得。エイベックスは「天国大魔境」や「ルックバック」の成功により、ターゲットの幅を広げたと見ることができるでしょう。
「ルックバック」はヒットマンガの常識を覆した
「ルックバック」はマンガやアニメを流通させる常識を変えたとも言えます。
この作品は少年ジャンプ+に掲載され、2021年7月に無料公開されました。140ページを超える作品を最後まで無料で公開するのは異例。ビジネスの視点で考えれば、ストーリーの山場以降に課金へと促すのが普通です。しかし、それをしなかったために作品は口コミで評判となって読者が殺到。Twitter(現X)では長時間にわたってトレンド入りしました。2021年9月にコミック化、2024年6月に映画化されたのです。
無料公開されたマンガの映画作品が、興行収入10億円を超えた例はあまりないでしょう。
これまでは雑誌などの人気連載をアニメ化し、映画化するのが一つのパッケージになっていました。
「ルックバック」はその優れた内容もさることながら、ヒットマンガを取り巻く仕組みそのものを破壊した記念すべき作品でもあります。
この作品の成功により、原作とアニメ、映画を取り巻く環境に変化が訪れれば、アニメ産業の更なる飛躍にも期待できるでしょう。
映像コンテンツ事業の営業利益が2.4倍に急拡大したイマジカ
IMAGICA GROUPもアニメで潮目が変わった会社の一つ。2023年10月から2024年3月に放送された「薬屋のひとりごと」が人気化。すでに2期の制作が決定しました。制作はイマジカの子会社オー・エル・エムとTOHO animation STUDIOが共同で行っています。
そして何より、このIPを保有するのが同じく子会社のイマジカインフォスなのです。
この会社はもともと主婦の友の出資によって設立されており、「声優グランプリ」などの雑誌を発行していました。その後、ライトノベルを手がけるようになります。一時はカルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ会社である、カルチュア・エンタテインメントの傘下に入りますが、2019年4月にイマジカが買収しました。
「薬屋のひとりごと」シリーズはもともと人気がありましたが、アニメのヒットで加速。1期のスタート時の累計発行部数は2700万部。2024年3月末に3300万部まで急増しました。
アニメや原作などを手掛ける映像コンテンツ事業の2024年3月期の売上高は、前期の1.2倍となる281億円、営業利益は2.4倍の12億円に急拡大。営業利益率は2.3%から4.5%まで伸びています。
イマジカは成長戦略の一つにIPを掲げました。イマジカインフォスはヒーロー文庫というライトノベルレーベルを持っています。「薬屋のひとりごと」の成功パターンに再現性を持たせられるかがカギを握っているでしょう。
メディアミックス化を進めるサイバーエージェント
サイバーエージェントの人気ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」の劇場版アニメ「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」が、興行収入10億円を突破するヒット作となっています。
この映画はゲームを制作するCygamesの子会社CygamesPicturesが手がけた初の映画作品。興行収入10億円に届けば十分成功と言えるでしょう。
サイバーエージェントは、2021年にリリースしてスマッシュヒットしたウマ娘の反動減に悩まされています。そこで、IPの長寿化という戦略を掲げました。ゲームだけに依存するのではなく、アニメや映画、イベント、舞台などへと幅を広げることによって収益を拡大するのです。「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」はサイバーエージェントのメディアミックス化戦略における、重要な役回りを担っていました。
CygamesPicturesはCygemesが開発したゲームのアニメ化を行っています。すなわち、ゲームのヒット作を生み出すと、グループ内で映像化する体制がすでに整っているのです。
Cygemesは果敢にオリジナルタイトルの開発に邁進しており、「GARNET ARENA: Mages of Magicary」というゲームの開発に着手していることが明らかになっています。ヒットIPへと押し上げることができるのか注目の作品の一つとなりました。
サイバーエージェントやエイベックスなどの新興勢力が、人びとを魅了するコンテンツを数多く生み出すようになっています。老舗配給会社や制作会社の脅威となる時代も視野に入ってきました。
文/不破聡