「こんなサービス、日本にあってもいいんじゃないか!?」というようなことを、海外に行くとしばしば考えてしまう。
もちろん、日本では法律の問題が立ちはだかり、なかなか実現できないサービスもあるだろう。が、法律とは常に可変するもの。国民の要望があれば、法律も改正されていく。
この記事で説明するインドネシアの『Jago Coffee』も、日本で同様のことをやるとするなら食品衛生法に則った条件をクリアしなければならないだろう。しかし、それを考慮しても「こんなのがあったらいい!」と思える仕組みを導入している。
自転車に乗ったバリスタがやって来る!
Uber Eatsは、Uberと契約した配達員が指定の場所まで飲食物を運んでくれるサービスである。
しかし、悪い言い方になってしまうがこの配達員は「食品のプロ」というわけではまったくない。出前業務を担っているに過ぎず、彼の持ってくる飲食物は彼の手で作られたものではない。なぜこんな当然のことを書くかというと、Jago Coffeeは電動アシスト自転車に乗ったプロのバリスタが指定の場所にやって来る仕組みだからだ。
専用アプリを使って呼び出す点は、食品デリバリーサービスのそれと同様である。到着後、自転車のストレージボックスに積んだコーヒー豆や茶葉から、直接飲み物を作ってくれる。
その営業スタイルは屋台に似ているが、一方でJago Coffeeは「屋台のコーヒー」に対する不満から生まれたサービスである。
世界有数のコーヒー生産国の「苦悩」
インドネシアは世界有数のコーヒー生産国だ。グローバルノートの国際統計によると、2022年のコーヒー生産量でインドネシアは世界第3位。意外なことに、コロンビアよりもインドネシアのほうが生産量では上に位置している。
ところが、当のインドネシア国民は自国産のコーヒーを飲む機会があまりないという。
インドネシアにもスターバックスコーヒーが進出し、若者の間で人気を誇っている。しかし、インドネシアのスタバの値段は日本のそれと大差ない。つまり、インドネシア国民にとっては相当な割高なのだ。かと思えば、庶民的な屋台が取り扱うコーヒーはパックの粉末、つまりインスタントコーヒーしかない。
砕いた豆から抽出したコーヒーを廉価で飲ませてくれるカフェは、実は決して多くないのだ。
イベント出向も可能
Jago Coffeeの取り扱うメニューは、最も安いもので8,00ルピア(約78円)。これなら、現地の労働者にとっても手軽な価格である。
また、移動式という点を生かしてイベント会場に出向させることも可能。結婚式やスポーツの大会、ご近所の寄合にもJago Coffeeを呼んで来客用のコーヒーを作ってもらうという活用法もある。
現在はジャカルタの一部地域のみでのオペレーションに留まっているが、それでも今年4月にシリーズA投資ラウンドで600万ドルの出資を獲得することに成功した。この資金を生かして、今後はサービスエリアを拡大すると同時に自転車とバリスタの数も増やしていくという。
農産物の地産地消を促す
Jago Coffeeは、「農産物の地産地消」という意味でも大きな意味合いを持つ。
インドネシア産コーヒーを、インドネシア黒人自身が消費し切れていない(高価故に飲むことができない)という現状を改善する。それは結果として、農産物の国内流通網の改良を促す効果ももたらす。
インドネシアでは、そのあたりが社会問題にもなっている。
生産者から小売市場に農産物が運ばれるまで、何人もの仲買業者が関わっている。これは不必要な中間マージンが発生する原因になり、農作物が小売市場に着く頃には価格が高騰している。そうした点にメスを入れれば、コーヒーを含めた農産物の価格は安くなり、しかも迅速な輸送が可能になっていく。
そのためには、まず「国内での消費を促す」ことから始めなければならない。もちろん、ただ消費を促すだけでなく「高クオリティーの加工」を施す必要がある。だからこそ、Jago Coffeeは素人の配達員ではなく、本物のバリスタを自転車に乗せているのだ。
日本にもこの仕組みが必要だ!
よく考えてみれば、これと同様の事情は日本にも存在するのではないか。
筆者は静岡県静岡市在住だが、ここでは「一般家庭の茶離れ」がよく叫ばれている。「最近では急須を持たない家庭が増えた」ということが問題視されているのだ。
茶の消費量が昔より減っているのは、確かに問題である。しかし、令和の価値観の中で生きる家庭に無理やり急須を持ち込むよりも、Jago Coffeeのようなサービスを作って手軽においしい茶を飲める環境にしたほうが、より現実的ではないかとも思えてしまう。
今こそ日本人は、アジア各国のスタートアップや新興サービスに学ぶ時が来ている。
【参考】
Jago Coffee
取材・文/澤田真一