近年、日本ではスタートアップ育成が国家的な重点施策となり、その中でも出口戦略の多様化が重要視されている。
特に事業の合併・買収(M&A)は、優れた技術やサービスを持つスタートアップが一層の成長と発展や大きな経営資源を得る有力な選択肢として注目されているのだ。
しかしながら、創業者にとってM&Aは事業への情熱や従業員、ステークホルダーへの影響など、多くの要素を慎重に検討する必要があり、重大な経営判断となり、社内外の適切なパートナーを見つけることも大きな課題となっている。
このような状況を踏まえ、スタートアップM&Aは、起業家250人を対象に「M&Aの準備に関する実態調査」を実施した。
56.8%の起業家が自社のM&Aによる売却・譲渡に関しての意向を持っている
まず、「自社の売却やM&Aによるイグジットの意向」に関する設問では、56.8%の起業家が自社の売却やM&Aによるイグジットに何らかの意向を持っていることがわかった。
現在、M&Aの具体的な売却・譲渡の計画が進行中、今後1年以内の売却・譲渡を検討中、1~3年以内の売却・譲渡を検討中と回答した起業家の合計は37.2%という結果に。
売却・譲渡の意向はないと回答した起業家と同程度となり、スタートアップ企業を取り巻くM&A意向は二極化している様子がうかがえる。
事業の継続を望む声がある一方、他方では具体的なM&A計画を進めている企業や検討を始めている企業も少なくない。
M&Aは創業者にとって重大な経営判断であり、事業への情熱や従業員、ステークホルダーへの影響など、多くの要素を慎重に検討する必要がある。
それゆえに意向に二極化がみられるものと考えられるが、同時にM&Aが身近な選択肢としてクローズアップされつつあることも、この結果から読み取れる。
自社のM&Aによる売却・譲渡意向について32.8%が役員等の経営陣にまで意向を共有している
次に、「自社の売却やM&Aによるイグジットの意向について社内にはどれくらい共有していますか?」といった質問をしたところ、役員等の経営陣にまで意向を共有している企業が32.8%と最多となった。
M&Aは経営の根幹に関わる重要な意思決定だ。この結果から、多くの企業で代表者や経営陣内に意向が閉じ込められている実態がうかがえる。
事業の将来を左右するM&A検討において、経営陣だけで完結せざるを得ず、社内での共有が進まない傾向にあるようだ。
しかしながら、事業の継続や従業員の処遇など、M&Aによる影響は多岐にわたるため社内の多くのステークホルダーとの円滑なコミュニケーションがM&Aの成否を左右する大きな鍵となる。
経営陣のみでなく、より広く社内における意思疎通を深めることが成功するM&Aに向けた重要な課題となっていると言えるだろう。
さらに「自社の売却やM&Aによるイグジットの意向について社外にはどれくらい共有していますか?(複数回答可)」と質問をしたところ、顧問やコンサルタントに意向を共有している企業が20.8%となる一方で、意向について社外には一切共有していない企業も45.2%と高い割合となっていた。
このように、M&A意向について社外に打ち明けられる相手は限られている実態がうかがえる。
一方で身近な銀行などの金融機関ではなく、中立的な立場から客観的なアドバイスが期待できる顧問やコンサルタントに意向を打ち明ける企業が最多であったことは、注目に値する。
M&Aは多方面への影響を慎重に検討する必要があり、公平な立場からの助言を求める動きが見て取れる。
しかしながら、未だ社外に意向を共有できていない企業も多数存在していた。M&A準備の過程で、より適切な相談先を見つけ出すことが、スムーズなプロセス遂行のための課題となっているようだ。