ヒット商品のアイデアは家族との日常にあった
開発にあたり程さんは、市販の体重計を30個ほど購入し、自宅で試行錯誤を繰り返したという。
「玄関、ベッドルーム、トイレなど、家中のあらゆる場所に体重計を設置しました。その結果、どの体重計も性能に問題ないものの『測定の習慣化』には繋がらなかったんです。ある日、体重計にフィットするようにバスマットを切って設置してみると、妻と子どもが自然と計測をしていたんです。その姿を見て『これはいける』と感じました。データ管理の部分は、私が得意とするソフトウェア開発で対応できると考え、商品化をスタート。自分のニーズを起点にスタートした事業ですが、市場のニーズを確認するために、クラウドファンディングにも挑戦しました」
市場にない新たなものを作る上で、主にデザイン設計に苦労したと程さんは振り返る。
「開発当初はプロトタイプを作り、製品を使って出てきた課題を2~3か月の間でどんどん修正していきました。課題の一つが、本体の厚さ。一般的なバスマットは平均して1cmほどなので、体重計の部分をかなり薄く作らなければなりません。また、安全面での考慮も必要です。体重計に乗る時は通常、真ん中に乗りますが、バスマットを使う時は踏む場所を気にしませんよね。バスマットである以上、縁を踏んでも転倒しないように設計する必要があったんです。それらの課題を解決するため、市場にあるバスマットのサイズを参考に、素材や構造をさまざま検討し、エンジニアサイドで試行錯誤して改良を重ねました」
ヘルスケア事業の難しさは「口コミの広がりにくさ」
『スマートバスマット』の開発を通して、ヘルスケア事業の難しさを感じたという程さん。今回の開発をpopIn Aladdinの開発時と比較して次のように語る。
「popIn Aladdinの開発時と一番の違いを感じる点は、ヘルスケア事業である『スマートバスマット』の口コミの広がりにくさです。popIn Aladdinは口コミが発生しやすい商品でした。購入後にSNSで写真を投稿してくれる人も多く、口コミが販売に繋がったんです。今回の商品は体重が測れるバスマット。体重はプライベートな要素ですし、SNSに商品のことを投稿する人が少なく、口コミを広めるのが難しいんです。『スマートバスマット』を使うことで、生き生きした生活が送れるようになる風潮を作り上げられるかが、ブランドとしての最大のチャレンジだと感じています」
「予防」の重要性を伝えながら、楽しく健康管理できる機会を提供したい
程さんは『スマートバスマット』の開発を通じて、さまざまな学びがあったと振り返る。
「ヘルスケア事業は、マネタイズが難しい領域です。保険制度が整っている日本では、予防の重要性を伝えるのが難しく、予防にお金をかける風潮があまりないように感じます。病気を治す技術の進歩も重要ですが、私は、健康寿命を伸ばして自分の人生を充実させるためには『予防』が大切だと考えています。高齢化社会と言われる現代ですが、80歳でも元気な状態であれば何も怖くありません。そういった意味では、健康管理の習慣化に役立ち、健康寿命を伸ばすことを目的とした『スマートバスマット』は、社会に貢献できる商品だと思います。ただ、それをどう広げていくかが現在の課題です。『こんな体重計が家にあったらいいね』とは思ってもらえますが、それ以上に『すごく欲しい』と思ってもらえる状態を目指したいですね。今後、ユーザーの方からさらに共感を得られるサービスを増やしていく予定です」
最後に、程さんは健康管理には「楽しさ」が必要だと語った。
「現在は、楽しく健康管理ができる機会を提供できる取り組みを進めています。例えば、オリジナルキャラクターのウェリーくんを登場させて、健康管理が継続しやすいようにサポートしています。身体を動かして遊べるタイプのスイカゲームも作りました。シンプルだけどちゃんと変化があり、達成感を得られるものに人がハマることは、これまでの経験でわかっています。その仕組みをどうしたら健康管理に落とし込めるかを考え、今後もユーザーのみなさんが楽しく使えるサービスを実装していきたいです」
取材/DIME編集部 文/久我裕紀