日本で昔からやっていた、「根回し」「社内政治」が米国ビジネスシーンで見直されているという。「Plitical Skill(ポリティカルスキル)」という名称で広がっており、経営者が組織を自由自在に動かすために使う技術力として、重要視されている。
経営層以外のビジネスパーソンもポリティカルスキルを身に付ければ、仕事で不満を抱くことは無い。例えば下記の様に感じている人はポリティカルスキルを持っていない人である。
・自分の上司は無能だ、不公平だ、理不尽だと感じている
・仕事のスタイルが根本的に違うために、誰かとしょっちゅうぶつかっている
・自分の貢献が認められないと感じている
・仕事のできない部下をどう扱っていいかわからず、イライラしている
・他部署との間で、利害の衝突から争いが起こっている
・自分は不当に扱われていると感じている
マリー・マッキンタイヤー著/桜田直美訳「人と組織を思い通りに動かす技術 ポリティカル・スキル」(SBクリエイティブ刊、定価1980円)では、社内政治は悪ではなく、仕事の自由度を上げるために重要なスキルであるとして、ポリティカルスキルの身に付けかたについて紹介している。
ポリティカルスキルで仕事の自由度がアップする
誰もが体験していることだが、人が集まれば、自然と政治が生まれる。特に会社ではどんなに優秀な人でも、ポリティカルスキルがなければ、良い仕事はできない。
ポリティカルスキルを身に付けるということは、ライバルを蹴落としたり、上司に媚びることではない。仕事の自由度を上げて、思い通りに人と組織を動かすことができる力のことだと、著者は新刊書で語っている。
20年以上のコンサル経験を持つ組織心理・組織力学のプロでもある著者のマリー・マッキンタイヤーさんは、「特にポリティカルスキルがない人は自分が望む選択や正しいと思う選択ができなくなってしまう恐れがある」として、ポリティカルスキルを身に付けるべきだと主張している。
今回はポリティカルスキルの実例として3つの手法を紹介しよう
その1 職場に理想を求めず、現実だけを見る
私達が仕事でやりがちなミスは、自分の理想を仕事に持ち込むことだ。例えば経理担当者だったら毎月25日までに営業から請求書を必ず提出してもらう必要がある。しかし、毎月、必ず締め切りを過ぎて提出してくる社員は存在する。この時、職場に理想を求めている人だったら、提出が遅れる営業マンに不満を抱き、毎回遅れる人には「私のことが嫌いなのでは?」と勘繰る。「遅れてすみませんでした」と謝る営業に対し、つっけんどんに対応して、周りから「お局」と呼ばれて、若い社員に煙たがれるのだ。
この時、ポリティカルスキルを持って、現実だけを見る人だったら、毎月25日に全員がきちんと提出してくれるといった理想をもたずに仕事ができる。
毎月送れる部門があることを現実的に受け入れ、イライラしながら待つことをやめる。そうして、25日過ぎたらいっさい受け付けない社内規定を通達し、難しい場合は翌月分に回せる仕組みをつくっておく。
遅れそうな人には前もってメールで「明日が請求書の締め切りです」と通知しておこう。「遅れてすみません」と言う方も嫌だが、言われる方も嫌なもの。仕事に理想ではなく現実だけを見れば、ストレスなく仕事ができる。
その2 相手との力関係を見きわめる
自分の持っているレバレッジを正しく把握しておくこと。特に組織で働くビジネスパーソンにとって、ポリティカルスキルの要となる部分だろう。レバレッジとはテコのことだが、ここでは組織内での力の大きさのことを表す。例えば上司に昇給の面接をする時、レバレッジの大きな人はA、Bどちらの主張で説得するだろうか。
A:この5年間、ずっと真面目に働いてきました
B:他の仕事のオファーを受けています
正解はB。他から求められる人材であること、レバレッジの大きな人であることを伝えている。仕事では自分のレバレッジを正しく把握し、計測しながら渡り合うことが大切だ。新刊書ではレバレッジが大きくなる状況と小さくなる状況を表にしているので、参考にしたい。
その3 「上り詰める人」は敵と味方を見分けて利用する
会社で仕事をする時、実績がモノを言うのは当然として、それ以外の要素も必要となってくる。特に人間関係は昇給や昇進に大きく関わる重要な要素のひとつだ。マリー・マッキンタイヤーさんも「良い人間関係は組織で働く人に欠かせない資産である」と述べている。ポリティカルスキルを上げるために、自分の味方になってくれる人が社内でどれぐらいいるか。逆に敵とみなしている人は誰なのかをきちんと把握しておく必要がある。
組織内でうまく立ち回るには、特に敵の存在をきちんと認識しておくことは大切だ。とはいえ、一番信頼していた部下から裏切られるといった話は日常茶飯事だろう。誰が敵で誰が味方か、わからないことは多い。完全に敵からの攻撃を防ぐことは難しいが、敵の目的は何かを冷静に分析することで、敵から受けるこちらのダメージを少なくすることはできる。
敵とみなした人や反感を持っている人と仕事をすれば、必ず足を引っ張られるし、思ったような成績を上げることが難しい。そのためには敵と味方を見分けて、仕事を振り分けるなど、臨機応変に対応する必要がある。
また、敵の情報を正しく把握しておくためにも、自分の味方になってくれる人の存在は欠かせない。人間関係意を良好にしておくためには、まず付き合いやすい人であるという印象を相手に与えること。できれば小さな人助けをしておけば、「あの時、助けてもらったから」とピンチを脱する機会があるかもしれない。
また、相手と自分の共通点を把握しておけば、仲間意識も高まる。さらに、仕事上無くてはならないパートナーであると相手が認識してくれたら、裏切ることもない。多くの味方が社内にいれば、誰かが悪口を言ったとしても、周りが相手をしないだけでなく、言った本人が自滅していくのである。
ポリティカルスキルとしてわかりやすい3つの手法を紹介したが、新刊書では他にも「上り詰める人は権力に逆らわない」や、「上り詰める人は正しいプランを立てる」「上り詰める人には影響力という武器がある」など、ポリティカルスキルを身に付けるための手法がたくさん紹介されている。
ポリティカルスキルを意識すれば、何より仕事がやりやすくなる。さらに、仕事において自由度が増せば、仕事の楽しさや生きがい、人生の豊かさにも関係してくる。社内政治という言葉の印象はあまりよくないが、いつかあなたの力になってくれるだろう。
著者:マリー・マッキンタイヤーさん
ワークプレイス心理学者。自身のウェブサイトを通じて国際的に活動するキャリアコーチ。拠点はアメリカだが、日本、オーストラリア、カナダ、韓国、イギリス、ケニア、インド、フランス、中国、その他多くの国や文化を背景に持つ多種多様なクライアントにコーチングを行う。フォーチュン500企業の人事ディレクターをはじめ、これまで公的機関と民間企業の両方で管理職を務めた経験がある。キャリアコーチとして、パナソニック、サンリオ、シスコ、グーグル、アマゾンをはじめとする多様な民間企業、および政府機関やNPOで働く人たちと一緒に仕事をしてきた。自身のウェビナーでキャリアの成功戦略を教えるのに加え、各地の大学でもマネジメントのセミナーを担当。職場の悩みに答えるコラム「あなたのオフィス・コーチ(Your Office Coach)」を13年間続け、本書の他に『マネジメントチーム・ハンドブック(The Management Team Handbook)』という著作がある。『ウォールストリート・ジャーナル』紙、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『カナディアン・ビジネス』誌、『フォーチュン』誌など、さまざまなビジネス出版物でキャリアに関するアドバイスを執筆
訳:桜田直美さん
翻訳家。早稲田大学第一文学部卒。訳書は、『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』『アメリカの高校生が学んでいる投資の教科書』(共に、SB クリエイティブ)、『言語の力 「思考・価値観・感情」なぜ新しい言語を持つと世界が変わるのか?』(KADOKAWA)、『ロングゲーム 今、自分にとっていちばん意味のあることをするために』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界最高のリーダーシップ「個の力」を最大化し、組織を成功に向かわせる技術』(PHP研究所)、『まっすぐ考える 考えた瞬間、最良の答えだけに向かう頭づくり』(サンマーク出版)などがある。
文/柿川鮎子