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「職場の同僚は家族でも友達でもない」若者たちの間で私生活とオフィスの健全な切り離しが進む理由

2024.07.29

the work spouse is dead

コロナ以降、働き方の変化や職場の人間関係のあり方も大幅に移り変わった

 最近、しきりに“the work spouse is dead”という文言を英語圏のメディアで見るようになった。”Work spouse”とは、「職場での(婚姻関係に等しいくらい親しい)パートナー」ということを意味する。コロナ以降の働き方の変化や職場のカルチャーの変化によって、人間関係のあり方も大幅に移り変わり、かつては職場でほぼ必須であった「親しいパートナー」の存在の必要性も薄れつつあるのだ。

 work wife/work husbandという言葉はポップカルチャーでもよく使われるもので、性別に関係なく、「職場での精神安定をサポートしあえる人」を指す。例えば、オフィスで食事を一緒にしたり、職場の人たちのゴシップを交わしたり、オフィス内でおしゃべりをしたり、もしくは仕事で理不尽な目に遭ったら共有しあったり。ひとりで仕事に耐えるのではなく、パートナー的存在がいるからこそ仕事を毎日がんばれるし、オフィスに行くモチベーションも上がる、という人は日本でも多いのではないだろうか。「この人なら信頼できる」という安心感が生まれるし、いわゆる「アットホームな雰囲気」も生まれやすい。

 しかし最近は、前述した”the work spouse is dead”やリモートワークの普及に加えて、「同僚は友達じゃない」というフレーズもアメリカの職場で広がっている。信頼できる関係だから放った気軽なジョークが問題発言として報告され、後ろから刺されることだってある。週末どう過ごしたのか、私生活がどうなっているのか、健康状態がどうなのか、シェアしたパーソナルな情報がどのように悪用されて「クビ」の理由に利用されるかわからない、という趣旨だ。もちろん全員がそういう競争が激しい状況に置かれているわけではないが、大量解雇が相次ぐアメリカの経済状況において、多くの人が仕事のポジションにしがみつくことに必死になっている。自分の代わりにその「仕事のパートナー」が昇給をしたり、仲がいいと思っていた上司に裏切られたりすることだってあり得る。そこまで信頼できないような職場環境になったと、多くのアメリカ人が実感している。

 もちろん今でも、「プロフェッショナルな関係性」を維持しながら同僚とフレンドリーに接しようというムードは消えてはいないが、詳しいところまでは入り込めない。仕事上、必要かつ適切と考えられるような距離感だけを維持することが最もセーフだ、という考え方だ。特にアメリカは表向きにはフレンドリーで距離感もすぐに縮めてくるように感じられるかもしれないが、実際にはそれは日本でいう「本音と建前」と同じで、単に建前が(日本人から見た時に)フレンドリーに感じられるだけなのだ。

 同時に、仕事の外での生活が一番大事だという(いわゆるワークライフバランス的な)考え方が広まったことも、アットホームな職場環境のニーズが減っている理由のひとつだと言われている。極論を言えば、仕事というのはお金を稼ぐところであり、仲間を作るところではない、自分がいつ切り捨てられるのかわからないのであれば不必要にプライベートをシェアすることで生まれるメリットはないという考え方も、私生活の充実を優先したい若者たちの傾向をふまえると理解できるだろう。自分たちを大切にしないような職場環境で無理に「仲の良さ」や「居心地の良さ」を求めて必要以上の労働を求められるよりも、淡泊な関係性を維持しつつ仕事をこなし、リアルな家族や友人との時間を楽しみたい、という「リアルの重視」が増加していることの表われなのかもしれない。

文/竹田ダニエル

竹田ダニエル●竹田ダニエル|1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。

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