■連載/ヒット商品開発秘話
お湯を注ぐだけでお気に入りのオレができることでおなじみなのが、味の素AGFの『ブレンディ スティック』。2002年2月に発売され、2024年3月末時点で累計販売杯数が150億杯を超えた。
現在販売されているのは定番フレーバーだけで16種。これに加え、季節限定品などがその時々で追加される。ブランド立ち上がり時はカフェオレに代表されるコーヒー、クリーミングパウダー、砂糖で構成された商品で展開を図ってきたが、現在は紅茶などコーヒー以外も充実させている。
2010年度以降、粉末スティック飲料市場で売上金額ならびに販売杯数でシェアトップをキーブしている。
生活実態の変化を背景に生まれた個包装
発売された2002年当時、家庭用のコーヒーといえば大きな瓶や袋に入っているのが普通。個包装のスティックコーヒーは珍しいものだった。
『ブレンディ スティック』誕生の背景には生活実態の変化があった。コンシューマービジネス部マーケティング第1グループ グループ長代理の桐山雅亘氏はこう説明する。
「小世帯化や家庭内での個食化が進んできていました。大容量のコーヒーはこうした生活実態とギャップが生じるようになってきました」
味の素AGF
コンシューマービジネス部
マーケティング第1グループ
グループ長代理
桐山雅亘氏
変わりつつある生活実態で喜ばれるコーヒーとして発想されたのが、1杯分を個包装することだった。アイデアとしてはキューブ状に固めたものやピラミッド型などいろいろあったが、試作をつくり検証を重ねた結果、使い勝手がよかったスティックに決まった。
肝心の味にもこだわりを見せた。最大の特徴は、マグカップで飲む量でレシピを設計したことにある。マグカップの量に合わせてレシピを設計したのは、リサーチ結果から決めたことだった。桐山氏は次のように話す。
「それまではコーヒーカップで飲むのが一般的でしたが、生活者の実態をつぶさに見ると、家庭ではコーヒーカップより大きいマグカップでコーヒーを飲んでいる人が多いことがわかりました」
コーヒーカップより大きなマグカップで飲むとなれば、飲みきるまでに時間がかかる。飲み終わる頃には冷めていることを踏まえ、淹れてから15分後あたりの冷めた状態でもおいしく飲めるレシピを設計することにした。レシピ設計の前提となる1杯の量は、当時のミックスコーヒーでは主流であった140mlから180mlに変更されている。
レシピ設計ではコーヒー、クリーミングパウダー、砂糖の配合にこだわったが、大事にしたのがミルク感であった。「『ブレンディ スティック』はクリーミー&スイートを大事にしています」と桐山氏。
ミルク本来のコクや甘味がしっかり感じられクリーミーであることにこだわったが、主役のコーヒーがミルクに負けてしまわないよう、やや深めに焙煎したコーヒーを使うようにしている。
「スティック」とは言わず「ミックスコーヒー」と名乗った過去
今ではすっかり親しまれている『ブレンディ スティック』だが、発売当時はなかなか受け入れてもらえなかった。
2002年2月発売当初のパッケージ。現在のように紙箱ではなく袋を使用。スティックだけではなくミックスコーヒーも併記していた
「個包装されたものが一般的ではなく、商品が何物かということが理解されづらかったところがありました」
このように明かす桐山氏。中に何が入っているのかがわからないから怖くて買えない、といった風潮があり、手に取ってもらうことが難しい時期があった。
こうした状況は徐々に解消されていったが、その裏には地道な消費者コミュニケーションがあった。具体的には、消費者が真っ先に目にするパッケージデザインを工夫した。桐山氏は次のように話す。
「現在は『ブレンディ スティック』をロゴにして目立つように表記した、スティック自体をしっかり見せるデザインにしていますが、以前はミックスコーヒーと表記するなどスティックがあまり目立たないようなデザインになってしまっていました」
パッケージでスティックを謳うようになったのは2007年。『ブレンディ スティック』で初のテレビCMを放映するタイミングからだった。ただ、パッケージでのスティックの表記は、現在と比べてかなり控えめだ。現在のパッケージデザインに近く、スティックを大きく表記するようになったのは2009年からになる。
スティックと言い切り始めて間もない2008年2月に発売されたカフェオレ 大人のほろにが/カフェオレ ハニースイート/コーヒーオリゴ糖入りカフェオレ マグカップサイズ。現在ほど「スティック」を大きく表示しておらず、スティクの画像も今より控えめに使っている
これまで販売してきたフレーバーは50種類近くにのぼる。フレーバー展開について桐山氏は次のように話す。
「コーヒーを飲むシーンが朝食の際に飲むだけだったところから、仕事の合間に飲む、夕方に一息つく時に飲むといったように増え、飲む時の気持ちも、くつろぎたいだけではなく気合いを入れたいなど多様化してきました。飲用シーンや飲む時の気持ちが多様化したのに合わせ、フレーバーを拡大していきました」
2010年から生活者の嗜好の多様化を踏まえコーヒー以外のフレーバーの発売も開始。現在も販売されている紅茶オレや抹茶オレが同年に発売になり、翌2011年にココア・オレが発売される。
珍しいところでは、黒豆カフェオレ(2004年)や同社独自のコーヒーオリゴ糖を使った特定保健用食品のコーヒーオリゴ糖入りカフェオレ(2005年)などを発売。限定品ではカフェインをカフェオレの2倍に当たる5000mg配合した受験シーズンに限定販売の勝てオレ(2011年)、デザイナーのコシノジュンコさんと共同開発した期間限定販売の黒糖ジンジャー・オレ(2016年)といったものも発売した。
2004年8月発売黒豆カフェオレ。スティックの表記がなくなりミックスコーヒーだけになっている
2005年3月発売のコーヒーオリゴ糖入りカフェオレ(特定保健用食品)
2011年12月発売の勝てオレ。カフェオレの2倍に当たる5000mgのカフェインを配合した
2016年9月発売の黒糖ジンジャー・オレ。デザイナーのコシノジュンコ氏と共同開発した