2023年10月31日、JR東海は東海道新幹線「のぞみ」「ひかり」の車内ワゴン販売を終了した。お菓子やおつまみ、固すぎて全然食べ始めることができないアイス、そしてホットコーヒー……新幹線の楽しみにしていた人も多かったのではないだろうか。
その歴史に幕を下ろし、悲しみに暮れるのも束の間、カタチを変えて新幹線のコーヒーは復活していたのはご存じだろうか。
それが、のぞみ停車駅の新幹線ホームに設置されている「SHINKANSEN COFFEE自販機(ドリップコーヒー自販機)」だ。2023年10月よりサービスを開始し、今、新たな新幹線の名物としてヒットの兆しを見せている。
空色の自販機を新幹線のホームで見かけたこともある人も多いのでは?
車内販売終了から生まれた新たなサービス、缶コーヒーという選択はなかった
現在、JR東海のSHINKANSEN COFFEE自販機は東京、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪の新幹線ホームに設置されている。昨年10月より東京駅から順次設置を進めており、2024年6月現在、計45台が設置されているという。
SHINKANSEN COFFEE自販機について、開発担当者である新幹線鉄道事業本部運輸営業部管理課の佐藤さんに話を聞いた。
「車内販売が終了すると決まってから、社内では『代替サービス』を用意しようとすぐに動き出しました。車内販売の中でも、ホットコーヒーは特に需要が圧倒的に高い商品でした。お客様へのサービスを低下させないためにも、急務でした」
車内販売の中でもコーヒーは売上上位の商品だった。
淹れたての温かいコーヒーを利用者に今後も提供し続けるにはどうしたらいいだろうか、それがスタート地点だったという。
「缶コーヒーという選択肢は初めからありませんでした。
缶コーヒーを購入できる自販機はすでに駅にも設置されています。これまで車内でコーヒーを購入されていた方は、缶コーヒーにはない新幹線ならではの体験を楽しみにしていたと考えたからです。
だからこそ、淹れたてのコーヒーをどのように提供するかがスタート地点だったんです」
その結果、たどり着いたのがドリップコーヒーが提供できる自販機だった。
「ホームにドリップコーヒー自販機があれば、ホームで購入して、温かいまま車内に持っていくことができるので、これまで通りの『新幹線で温かい淹れたてのコーヒーを飲む』というサービスが引き続き提供できます」
JR東海のこだわりが凝縮されたSHINKANSEN COFFEE自販機
サービス開始から半年、新幹線のホームでは時折、SHINKANSEN COFFEE自販機に列を成している光景も目にするようになった。
ホームでひと際目を引く空色の筐体をはじめ、自販機本体にも利用者を楽しませる工夫がちりばめられている。
「新幹線を利用される方は旅行で利用される方も多い。そして何よりもSHINKANSEN COFFEE自販機は『新幹線のサービスの一つ』として設置をしています。通常の自販機に埋もれてしまわないように、目を引くデザインにしたいという思いがあり、さわやかな色合いでお客様を迎える優しい空色にしました。
また、車内販売では一種類のコーヒーしか用意できませんでしたが、ドリップコーヒーが提供できる自販機で検討を始めたところ複数のテイストを用意できるということに気付きました。だったら何か新幹線にまつわる遊びを入れようと考えたんです。
結果として『のぞみ』『こだま』『ひかり』、そして『ドクターイエロー』という東海道新幹線の各タイプの愛称を由来とする4つのブレンドを用意しています。
酸味、苦みなどで違ったテイストにしていますが、特に『ドクターイエロー』は高級な豆を使用していて、他の3種のブレンドよりも値段を高く設定しています(※)。実はカップのデザインや色も『ドクターイエロー』だけ特別仕様になっています(笑)。
他にも、コーヒーを購入してドリップするまでに最大で95秒程度の時間がかかるのですが、その間も楽しんでもらうために、ドリップをしている風景を生中継してくれるモニター、コーヒーの香りが出る穴、車内チャイムでも用いられている「会いにいこう」BGMなど自販機本体にもこだわりが詰まっています」
※新幹線のぞみ、新幹線ひかり、新幹線こだまブレンドは各300円、ドクターイエローブレンドは500円
ホットコーヒー以外にもアイスコーヒーやラテ系商品なども販売している
「ひかり」に乗るときは「新幹線ひかりブレンド」にしようかな…と悩むのも楽しみのひとつ
「新幹線は長く愛されているサービスです。同じようにSHINKANSEN COFFEE自販機もお客様に長く愛されるサービスになってほしいなという思いがあり、コーヒーの購入から実際に飲んでいる時間も含めて〝新幹線空間〟を感じてもらえると嬉しいです」
車内販売の終了には、当時、終了を惜しむ声が多く集まっていた。
ネガティブなニュースから一転、いま、SHINKANSEN COFFEE自販機で購入したコーヒーの写真を旅の思い出としてSNSに投稿するユーザーも少なくない。
お客様ファーストの彼らだからこそ新たな愛されるサービスを生み出すことができたのだろう。
時代と共に変化を続ける新幹線のサービス。その最新版をぜひ楽しんでほしい。
取材・文/峯亮佑