裁判所のジャッジ
東京高裁
「業績退職金の約525万円をゼロにしたことはOK!」
以下、理由を解説します。
■ 競業避止義務条項
そもそも会社が競業避止義務条項を定めることは、労働者の権利を制限していることにならないのか?という疑問が浮かぶ方もいると思いますが、裁判実務では「合理性があればOK」ということになっています。たしかに労働者には職業選択の自由があるんですが(憲法22条)、ノウハウの流出等を防ぐために合理性が認められればOKとなっています。
今回の事件でも、ノウハウを持っている従業員が転職した場合、転職先のZ社はノウハウを利用して利益を得られ、かたやY社は不利益を受けると考えられるので競業避止義務を課すことには合理性があると判断されています。
■ 退職金規程
競業避止義務違反を理由とする退職金減額条項もOKと判断されてます。
■ Xさんの退職金を減額できるのか?
―― 今回のXさんのチョンボを理由に退職金を減額できるのでしょうか?
東京高裁
「できます。Xさんは【ある2社の案件にY社が高い関心を持っていたこと】を知っていたにもかかわらず、その2社に関する資料を大量に持ち出してZ社に転職し、その2社の案件を提案してZ社で採用されています。これは悪質な競業避止義務違反にあたるからです」
というわけで業績退職金がゼロとなりました。
■ マメ知識
今回の事件で東京高裁が「悪質な」と付言しているとおり、競業避止義務があった場合であっても「軽微な」違反であれば、現在の裁判実務では退職金が減額されることはありません。
なぜなら現在の裁判実務では「退職金を減額または不支給にできるのは労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られる」とされているからです。今回の事件の地裁でもそのように述べられています。
どんなチョンボをすれば退職金が削られるのか?についてはコチラの記事をご覧ください
オマケ(ほかの裁判例)
情報をパクって転職した事件は他にもあります。なんと営業秘密8000件を持ち出した事件。(スカイコート事件:東京地裁 R5.5.24)こちらの事件でも「退職金ゼロOK!」と判断されています(懲戒解雇もOK)。
情報をパクって転職先にお土産として持っていきたい気持ちが芽生えるかもしれませんが、退職金が吹き飛ぶことのリスクを押さえておきましょう。
今回は以上です。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。法律コンテンツを作ることが専門の弁護士。
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