やりたいことや複業先が決まれば準備万端! とはいかないのが現実。なぜなら「スキルアップのため」「収入を増やすため」などの目標達成にはいつだって〝学習〟が必要だからだ。独学のプロ・柳川教授は〝大人だからこそ〟有利になるリスキリング術を教えてくれた。
東京大学大学院
経済学研究科教授
柳川範之さん
慶応大学専任講師、東京大学助教授、同准教授を経て、2011年より現職。新しい資本主義実現会議有識者委員などを務める。主な著書に『東大教授がゆるっと教える 独学リスキリング入門』(中央公論新社)などがある。
新しい知識を習得するだけがリスキリングじゃない
新しい仕事に就く前にその仕事に慣れる、準備することは、複業におけるリスキリング。このように語るのは「独学」の専門家である東京大学経済学部教授の柳川範之さんだ。リスキリングこそ、複業成功のカギを握ると言う。
「リスキリングをエンジニアリングといったデジタル技術などを新しく身につけることだと思っている方が多いです。もちろん、若い世代だと知識の深い蓄積がないので、新しい知識を身につける余地がかなりあります。しかし、知識と経験を蓄積してきた30~50代になると、これまで獲得した知識や経験を全く生かさないのは、もったいない。自分の能力をほかのことに生かしていくことを考えたほうがいいと思います」
柳川さんはリスキリングに取り組む前にまずやってほしいこととして「自分の知識・経験が何に生かせるのかを知るために行なう、知識・経験の棚卸し」を挙げる。
「自分がこれまでやってきたことを客観視するには、毎日何をしたかを具体的に書き出し、整理することが必要です。自分でできる限り、能力を客観化したり言語化したり工夫をする必要があります」
整理することは自分だけでできるが、自分の知識・経験を客観視するには他人の力を借りることも必要。やりたい仕事をするために伸ばすべき能力などを前向きに言ってもらえれば、受け入れやすい。
今までのやり方にこだわらずフラットに考える
何をリスキリングするか「棚卸し」で明確にした次は、実際に取り組むターンだ。その際に意識すべきが、「アンラーン」。固定観念から自分を解放することだ。
「リスキリングがうまくいかない一番の原因は、もともと勤めている会社のカルチャーややり方を押し通そうとすることです。今までのやり方にこだわらずフラットに考え、新しい仕事のやり方を学ぶ姿勢が大事です」
とは言っても、違う会社のカルチャーにフィットさせることは大変だ。柳川さんは「アンラーンを行ない、違う会社のカルチャーにフィットできるようにするには、2つの方法があります」と言う。
1つは、カルチャーに染まっていることを自覚させること。
「アンラーンで今までのクセやカルチャーをはぎ取ることは大事だ、と自覚することで相当変わることができると思っています」
もうひとつは、新しいやり方に触れること。自分のやり方が特殊であり今までのカルチャーに縛られていることが自覚できるのは、新しいやり方に触れた時だ。新しい環境に身を置くことはアンラーンを加速するので、可能であればお試し複業も選択肢のひとつだ。
中断は当たり前。リスキリングは長続きしない
働いているとまとまった時間が確保できないので勉強も効率的に進めたいところ。柳川さんは「三日坊主になってもいいと割り切ることも重要です」と強調する。
「本業で忙しいと、がんばろうと思ってもできないことがいくらで起こります。そうなった時に、自分はダメだ、リスキリングに向いていないと思ってしまうと、一向に先に進めません。社会人のリスキリングは環境が整い、会社がバックアップしてくれることがない限り、それほど長続きしない。中断は当たり前だと思うことです」
現状に安住したら未来は好転しない。しかし、三日坊主でも繰り返せば明るい未来が開ける。