複(副)業※には法律の規制がなく、そのイエス・ノーは各企業の就業規則に委ねられている。それだけに複業者にとっては複業による解雇の恐怖や、補償といった不安要素も山積みだ。労働法に詳しい専門家に複業の今を聞いた。
神戸大学 法学研究科教授
大内伸哉さん
東京大学法学部卒。主にDXのもたらす雇用への影響やテレワークなど新たな働き方の広がりに伴う法政策課題を研究。『どこまでやったらクビになるか』(新潮新書)など多数の著書を上梓。
無断で行なう複業には懲戒解雇があり得るが……
制約はありつつも企業も 複業時代に向けて変貌中
労働市場全体で人材の活用を広げるという観点から、2018年に、厚生労働省が策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(最新改訂は2022年)で、企業に所属する正社員も複(副)業がしやすくなった。ただ誤解してはいけないのが、このガイドラインは法による規制ではないことだ。
「複業は法律で規制されたものではないので、各企業の就業規則により独自にルールを定めることができます」と神戸大学法学部の大内伸哉教授はいう。
就業規則とは、労働者の労働条件を企業側が定めるものであり、入社時に同意しているかに関わらず、適用される。時代の変化で、複(副)業に積極的な企業は増えているものの「社員に自社への忠誠心を求め、複業による忠誠心の二股は許さない」という、旧態然のルールを曲げない企業も多く、届け出制としながら、なかなか許可を出さないケースもある。複業をする前に、自社の就業規則をチェックするのは必須だ。
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にある4つの禁止事由を就業規則に取り込む企業も増えているが「会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合」のように曖昧な表現もあるため、社員が問題なしとジャッジしても、場合によっては企業から規則違反を突きつけられる可能性も。特に就業規則に届け出が義務づけられているのに、企業に黙って無届けで複(副)業を行なうと義務違反となり、最悪、懲戒解雇もあり得るのだという。
「YouTubeやクラウドソーシング、自作の商品など、ネットを使った自営での複業を始めるにあたっては、まず自社の就業規則を確認してください。そのほかにも、名誉や信頼の毀損といった抽象的な文言を用いた複(副)業の禁止事由が定められている場合には、会社側に確認しておいたほうが、法的リスクの回避になると思います」(大内教授)
Q|企業が複業を禁止できる理由は?
A|以下の4つだけが制限できる
2022年に厚生労働省が改訂した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」。原則複業を推奨しつつ、上に挙げた4つの事項では、企業側が制限できるとしている。
Q|複業者の労災保険給付はどうなるの?
A|2社の合計賃金額で保険給付
業務上や通勤中の事故が原因で労働者が休んだ時に、休業補償として支払われる労災保険給付。以前は、複(副)業先への通勤中や勤務中に起こった災害について、複(副)業先での給料をベースに算定し、本業での給料は加算されなかった。2020年9月の改正後は、2社の給料が合算されるようになり、より複業がしやすくなった。