複業は目先の収入ではなく、〝やりたいこと〟で選ぶべき
【企業業務】×【個人事業】型
【会社取締役】×【小説家】
マネックスグループ取締役兼執行役
山田尚史さん
東京大学を卒業後、弁理士として活動。2012年にAppReSearch(現PKSHA Technology)を設立し、上場へと導く。現在はマネックスグループで取締役を務めながら、執筆家として活躍中。
ポートフォリオを意識して、長期的に「やり抜く」こと
2023年10月、「このミステリーがすごい!」大賞(宝島社)に『ファラオの密室』が選ばれた。この小説を書いたのは、マネックスグループで取締役兼執行役を務める山田尚史さん。企業で経営に携わりながら、小説家として執筆活動も行なう。
「小学生の頃から小説家への憧れがあったこと、エンターテインメントで人を楽しませることが好きだったことから、20年の末から小説を書き始めました。受賞した時は、うれしいよりも『信じられない』という感覚が強かったですね。実際に本が出版されるまで実感がなかったんです。10〜20年をかけて取り組もうと思っていたことだったので」(山田さん以下・同)
一見、関連性のないように思える経営者と小説家の仕事。しかし、兼務することによって得られるメリットもあるという。
「例えば、勉強をしなければいけない時に掃除をしたくなるように、それぞれの仕事が頭の切り替え、気分転換になっている気がします。相乗効果で両方がはかどる感じです。小説を書いている時間があるからこそ、本業でも成果が出せると思います」
複業を成立させるためのコツについては次のように話す。
「『GRIT(やり抜く力)』がとても大切だと考えています。僕はGRITを、逆境で瞬間的な力を発揮することではなく、失敗することがあっても、長期でひとつの目標に向かってリカバリーしてがんばり続けることだと思っているんです。例えば、小説を書きたいという目標があれば、それに向かって長期的にコミットできるよう、できるだけ毎日書く。少なくても週に3日だけは書くと決め、実行するのがいいと思います」
また、複業の選び方にも山田さん流のポイントがあるという。
「昼間にしている仕事と同じことをやるなど、『もったいない複業』を選ぶ方が多い印象です。もし同じような仕事をするなら、複業でちょこちょこ稼ぐよりも、昼の仕事に一生懸命に取り組むほうが将来の成功やキャリアアップにつながるはずです。なので、僕は本業とは違うスキルが身につくことに挑戦するほうがいい気がしますね。複業でも大事なのは、自分の中でバランス良く、ポートフォリオを組むことです」
複業においては、収入の最適化よりも「人生レベルでの最適化」を目指すべきだと、続ける。
「執筆もそうですが、短期で結果が出ることは、ほぼありません。今は『タイパ』や『コスパ』が意識され、インスタントな結果に飛びつきがちな時代ですが、僕自身の経験としては、本当の達成には『報われない努力』が必要だと思います。本当にやりたいことであれば、その努力の過程自体が幸せなので、自身の目標に向けて長期的に動くほうが後悔はないと思いますね。『やりたいことがない』という方は、本を読んだり、映画を観たりするなど、普段の行動を少し変えてみて、自己理解を深めることから始めてみるのがよいかもしれませんよ」
子育てにも積極的に参加している山田さん。お子さんが寝てから起きるまでの間、睡眠を確保しながら、1日4時間ほどを複業である執筆活動に充てている。日中はマネックスでの業務に取り組み、夕方にはお子さんのお迎えに。
【会社取締役】
マネックスグループでは、クリプトアセット事業、テクノロジー、AI戦略の3つの分野を担当。現在同社のエンジニア体制強化などに従事している。
【小説家】
小説家としては次回作へ継続的に執筆活動を行なっている。「新人賞の受賞はゴールではなくスタートです。経営者の道楽と思われないよう、これからもいい作品を書き続けたいです」(山田さん)
〈複業で成功するコツ〉できるだけ「毎日」。難しければ週単位で取り組む時間を確保する
理想は「毎日取り組むこと」だが、「週に3日」などできる範囲から始めてみるのもいい。それを習慣化させたうえで、長期的な目標に向かってコミットする「GRIT(やり抜く力)」を意識しよう。
取材・文/久我裕紀 撮影/浦 将志