優秀な人材をシェアする 時代が目前に迫っている
人材不足が深刻な中小企業だけではなく、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改定などをきっかけに、大企業でも、社員の複業を解禁する動きが活発化している。
「年功序列制度の見直しで、大企業も管理職の新陳代謝が進み、古い常識を変えようとする意識が高まってきました。優秀な人材の離職抑止などを目的に柔軟な働き方のひとつとして複業を認める企業は急増しています」と、企業の働き方改革を支援するクロスリバー代表・越川慎司さんは解説する。
クロスリバーでは、7年前の創業時から「専業禁止」を掲げ、メンバー全員が自分のスキルを複線化し、様々な仕事をするパラレルキャリア的働き方を推進してきた。
「専門性が高く、経験豊かな人材を正社員で確保することの難しい中小企業でも、複業なら手伝いたいという人は増えています。実際、ゼロから人を育てるより、すでにナレッジのある複業人材に助けてもらうほうが仕事もやりやすく、効率も上がると感じました」
大企業にとっても、複業を容認することは、他社のナレッジを吸収しやすく、社内の課題解決やイノベーションにつなげやすいため、有能な人材を複数の企業でシェアする流れは加速。「2030年には、ビジネスパーソンの複業が当たり前になる、総複業時代が来る」と、越川さんは予測する。
複業によって個人にも 様々なベネフィット
企業だけではなく個人にもメリットがある。複業によって、1社だけに頼らず、複数の会社から収入を得られることは生活のリスクヘッジとなり、新たなスキルも身につけられる。社会人総複業時代を見据え、今から複業に備えておくことは重要だ。
「複業では、自分の〝好きなこと〟より〝得意なこと〟のほうが生かしやすく、うまくいく確率も高まります。例えば、ほかの人が1時間かかる資料作成を自分は10分でできるといったことでも構いません。周囲は苦労しているのに、自分は簡単にこなせることをまず洗い出してみてください」
究極を言えば、〝好きなこと+得意なこと+求められること〟の3つが重なった複業がベスト。仕事での自己実現を感じやすい。
ただ、自分には複業をするほどの能力はないと考えるビジネスパーソンは、総複業時代をネガティブに捉えがちだ。
「まず前提として、働くうえで、能力がゼロの人はいません。能力はあるけれども、今の会社や部署ではうまく発揮できてないという人が圧倒的に多いと思います。本来の働く目的は、稼ぐことよりも、近くにいる人を楽にすること。社内で『人助け』ができない人は、残念ながら社外でも絶対に通用しません。自分の職責や、守備範囲外でも職場で人を助けて感謝されることが複業の第一歩です」
クロスリバー代表
越川慎司さん
日本マイクロソフトの業務執行役員を経て2017年にクロスリバーを起業。800社以上の働き方改革を支援した。作家として直近7年で29冊のビジネス書を上梓する。
正社員の採用難が顕著に
労働人口の減少や少子化などからバブル期ほどの深刻な人手不足に。事業縮小や倒産など、経済にも大きなダメージを与えている。
複業/業務委託人材の採用経験実績は増加
中小企業や地方自治体でも複業人材の採用は活発化。特に専門性の高い分野では、今後も採用に踏み切る企業の増加が見込まれる。
取材・文/安藤政弘
出典(円グラフ)/「複業採用に関する実態調査」(2024年2月9日・Another works調べ)