本稿では絶対評価と相対評価それぞれのメリット・デメリットを紹介していきます。
相対評価とは?
「相対評価」とは、個人の能力や成績を集団や組織のなかの他者と比べることによって、全体のなかでどのあたりの位置にいるのか、相対的に評価する手法です。例えば、50人の従業員がいる場合、A評価は10人、B評価は15人、C評価は25人といったように、評価の分布を前もって設定しておき、そこに成績を落とし込んでいく方法です。
相対評価で評価する場合、自身が所属する集団や組織の成績の水準によって、自身の評価が大幅に左右されることが特徴です。例えば、同じ成績でも集団が異なる場合、相対評価であれば自分よりも優秀な成績の人が多ければ自身の評価は低くなり、自分よりも優秀な人が少なければその集団内での成績が高くなります。企業においても同じことがいえるため、職場に自分よりも優秀な人が多いほど、高い評価を得ることが難しくなる、という仕組みです。
企業における相対評価
相対評価は、企業において人事考課で用いられることが多いです。2つの方法があり、1つは、評価基準を明確に決めずにチーム内の社員の成績だけを比べて評価する方法と、チームの実績に基づいてメンバー一人ひとりの貢献度によってランク付けをする方法です。企業において相対評価が採用されるのは、バランスのいい評価分布になるため、昇給のコントロールが可能になり、従業員にかかるコストを抑えられるという利点があるからです。実際に、日本では相対評価を用いる企業が多く見られますが、その理由は年功序列制度があったからです。従来は個々の社員の成長よりも社内の序列を優先してきました。これにより一人ひとりのスキルや成績ではなく、年齢や在籍年数などで評価をする、社内における相対評価が用いられてきたのです。しかし、外資系企業では「絶対評価」を導入するケースが多く見られます。そして、昨今では従業員の意欲を引き出すことを目的に、日本企業でも絶対評価を使うケースが増加傾向にあります。
近年は絶対評価に注目が集まっていますが、相対評価にも良い点があります。ここでは下記のメリットを確認していきましょう。
評価をするのが容易
主観を排除した評価が可能
人件費のコントロールが可能
集団内の競争を促せる
それでは1つずつ解説していきます。
■評価をするのが容易
1つ目のメリットは、評価が容易である点です。相対評価であれば、集団や組織のなかでメンバーを比べて順位やランクを付けていくだけなので、専門的な知識や面倒な作業が不要になり、短時間で評価ができます。また、評価基準を明らかにしなくても良いため、新しく相対評価を採用したとしてもすぐに運用ができます。面倒な作業をせずとも容易にメンバーの評価ができるため、評価者にとっては有益な評価手法といえます。
■主観を排除した評価が可能
成績の評価において重要なことは、評価者によって評価が変わったり、評価者の好みや主観による評価の偏りを避けることです。その点において、相対評価であれば、他者と比べてランクをつけて評価をするので、評価者の主観に左右されない客観的な評価が可能になります。また、評価分布もあらかじめ設定しておくため、評価者の偏見や寛大化・厳格化傾向も回避できます。
■人件費のコントロールが可能
相対評価ではあらかじめ設定した分布に沿って評価をしていくため、高い評価を得る者も低い評価を得る者もまんべんなく存在し、全体のバランスが偏ることがありません。したがって、昇給の対象を限定できるため、人件費が高くなりすぎるといったことが避けられ、予算内に抑えることができます。これにより、年間の人件費も管理しやすくなるのです。例えば、良い評価を得た従業員にインセンティブを支払うケースを考えてみます。最も良い評価を得た従業員には3万円を追加して支給し、2番目と3番目に良い評価を得た従業員は2万円を追加するとします。こうすることによって、誰がどのような成績を収めようが予算内に支出を抑えることが可能です。
■集団内の競争を促せる
そして、4つ目のメリットが集団内の競争を促せる点です。相対評価であれば、集団やチームのなかでランクを付けられるため、自然と集団内で競争が活発化します。集団内で上位のランクになれば、評価も上がり、さらに上位を目指して努力するのです。これにより、マネージャー側が発破をかけたりメンバーを徹底的に管理せずとも、自発的に動くようになりモチベーション向上にもつなげられます。また、集団内で競争することで適度な緊張感が生まれ、お互いに競い合うことでさらなるスキルアップが期待できるでしょう。また、評価分布が前もって設定されているため、評価が一部に集中してしまうことも避けられます。
上記のように相対評価にはいくつものメリットがあります。しかし、メリットだけではなく下記のようなデメリットにも注意しておきましょう。
正しい評価が難しい
納得できる説明ができない
低評価の従業員の努力が評価されない
それでは1つずつ解説していきます。
■正しい評価が難しい
相対評価ではあらかじめ評価分布を決めてから、そこにメンバーの評価を落とし込んでいくため正しい評価にならない可能性が高くなります。例えば、今年度は2,000万円の売上をだすことで最も良い評価を得たとします。しかし、翌年度では2,500万円の売上をだしたのに周りがさらに良い成績をだしたため、相対的に評価が下がるケースもみられます。つまり、自身がどれだけ努力して成果をあげたとしても、相対評価では「他者と比べてどれだけ秀でているか」で評価されるので、意欲の低下を招いてしまいます。
■納得できる説明ができない
相対評価は評価基準を明確にしなくてもよいため、「なぜこの評価なのか?」といった疑問に対して納得できる説明が難しい点がデメリットです。また、自身を含めてすべての従業員がうまく成果を出せなかった場合でも、高評価を得る従業員が必ず出てきます。
■低評価の従業員の努力が評価されない
例えば、評価が低い従業員が努力して前回よりも大幅に成績を伸ばしたとします。しかし、もとの評価が悪かったため成績が大きく伸びたとしても、相対的にはやはり低い位置のままです。つまり、低評価の従業員が努力して成績を伸ばせた場合でも、他者と比べて評価が決まる以上は、それ以上の成績を出さなければ高い評価を得られません。
相対評価と対をなすのが「絶対評価」です。
絶対評価とは、前もって設定しておいた数値やノルマをクリアしたかどうかや、あらかじめ設定した目標の達成度合いによって評価を下す手法です。目標を達成すれば高い評価がつきますが、達成できなければ低い評価となります。絶対評価は相対評価と異なり、他者との相対関係ではなく、設定した基準に沿って個々人を客観的に評価するため、集団のレベルに左右されることなく評価が可能です。
もし絶対評価を採用するのであれば、下記のようなメリットを把握しておきましょう。
納得感がある
効率的な能力開発が可能
それでは1つずつ解説していきます。
■納得感がある
相対評価であれば、努力して成績をあげてもチーム自体のレベルが高ければ評価に反映される可能性が低くなります。一方で、絶対評価であれば評価の基準が明確になっているので、自身の評価に対して納得度が高まるというメリットがあります。
■効率的な能力開発が可能
絶対評価は評価基準が決まっており、達成できなければ評価が低くなるため、厳しい評価ともいえます。しかし、基準が明確であり、「それをクリアできれば高評価を得られる」というのが分かりやすいため、評価を受けた従業員は「なぜ目標を達成できなかったのか?」や「次はどうすればノルマをクリアできるか?」といったことを考えるようになり、能力開発やスキルアップがやりやすくなります。
つまり、相対評価よりも絶対評価のほうが、一人ひとりの成長を評価しやすく、その結果モチベーションの向上にもつなげられるでしょう。
一方で、絶対評価には下記のようなデメリットに注意しましょう。
人件費のコントロールが困難
評価基準を決めるのが困難
それでは1つずつ解説していきます。
■人件費のコントロールが困難
相対評価であれば、あらかじめ評価分布が決まっているため人件費のコントロールができますが、絶対評価だと前もって人件費を決めることができません。
チームや集団全体の成績が良くなれば人件費が上がり、成績が悪くなれば人件費が下がります。
■評価基準を決めるのが困難
評価基準が難しすぎると全体の評価が下がり、逆に簡単すぎると全体の評価が上がってしまいます。したがって、評価基準は難しすぎず簡単すぎない適切な難易度に設定しなければなりません。中間的な評価を受ける人物が多くなるように設定しましょう。
上記で解説したように、相対評価と絶対評価にはそれぞれ良い点もあれば、悪い点もあります。近年では絶対評価を用いる日本企業も増えてきましたが、絶対評価の方が優れているわけではありません。
先述したように、相対評価には、社内の競争力を上げることができる力があります。それによって市場における競争力が上がることも期待でき、強い企業となれるでしょう。しかし、絶対評価であれば明確な基準に従って評価が下されるため、従業員が納得しやすく人事評価への信頼も高まるといったメリットがあり、これは大きな意味を持つことから、絶対評価が昨今注目されているのです。従業員が正当な評価を受けていると感じることができなければ、どのような評価制度を用いても効果は薄いでしょう。したがって、絶対評価のメリットである客観的な評価や透明性が現代において重要な要素と言えます。
両者は「こちらを使うべき」「こっちのほうが優れている」というわけではなく、自社の状況やビジネス環境を確認しながら適切に判断し、用いることが重要です。どちらかだけを使わなければならないわけではないため、一つの企業で2つの手法を使い分けることもできます。どちらにせよ、両方の手法をきちんと理解するとともに、自社や従業員の状況と照らし合わせて適切な選択ができるようにしましょう。
文/識学
この記事はマネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」による寄稿記事です