専門家に聞く今どきのキャリアを考えた転職術
転職先を探す手段は従来より増え、自由度も高まった。しかし、だからといって必ずしも自分のキャリア希望にあった転職先が見つかるわけではない。自身の意識や工夫が必要になるだろう。このような時代だからこそ、転職希望者は、今後のキャリアを加味した最適な転職のヒントを押さえておきたい。
そこでキャリア形成の専門家である、法政大学名誉教授 認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク理事長 諏訪康雄氏にいまどきの転職術について尋ねたところ、ヒントとして次の回答をもらった。
「変化の激しい時代は、人も、仕事内容も、組織も、次々と姿を変えます。『華やかな季節』も『穏やかな環境』も長くは続かず、求人と求職の両方で『人と職務と組織の相性』を絶えずリセットしていきます。これが転職・キャリア採用が盛んになっている背景といえます。
求職者は転職に際して、その後も時代は変わり、キャリアの先が長いことを考慮に入れる必要があります。技術、技能、経験、知識の継続性や発展性ばかりでなく、それらの違った領域への応用可能性を見い出せそうかどうかなどを、第三者視点を加味して判断することが望まれます。
キャリアの棚卸と将来展望を自分なりに確認しながら求人情報を多角的に検討することは、初めての転職の場合だけでなく、再度の転職時にも不可欠です」(諏訪氏)
●賃上げ率の比較も重要に
世の中では賃上げがさかんに言われているが、求職者にとってはメリットも期待できる。転職先企業に賃上げの意思があれば給与アップ転職も期待できる。
Indeedが今年1月に20歳~59歳の正社員の男女計2,400名を対象に行った「賃上げに関する意識調査」では、働く人の思いを知ることができる。
「この上昇率を下回ると、給与に不満を感じはじめる」賃上げ率を尋ねたところ、全体では平均+4.8%に。つまり就業者全体では約+5%を下回る賃上げ率で給与に不満を感じはじめる傾向にあることがわかった。
転職先探しの先には、ぜひ転職先の賃上げ率を確認したい。賃上げ率を見るときにはどんなことを意識すればよいか。諏訪氏に尋ねたところ、次のように回答した。
「転職先の賃金水準、労働時間・残業度・休日休暇、職場環境、人間関係などは、転職先を決定する際に見落としてはならない条件です。
賃上げ率は、長く続いたデフレ期と違い、インフレが続きそうな見通しの下では、一時的な率ばかりでなく、今後に予想される賃上げ率や賃金体系も気にする必要があります。業界や地域の賃上げ動向を何年分か調べ、それと転職先の賃上げ率を比較すると、企業の支払い能力がある程度、推測できます。転職のクチコミサイトで賃金やその他の比較を見る際にも、それなりに参考になります。
賃上げは企業の稼ぐ能力次第なので、利益率、生産性、従業員一人あたりの売上高が分かる場合は、当面の見通しをつけるのに役立つでしょう」(諏訪氏)
転職を考えている求職者は、使い慣れている求人サイトやサービスを一度見直してみるのも一案だ。新しい仕事探しに役立つ何かに出会えるかもしれない。
【取材協力】
諏訪 康雄氏
法政大学名誉教授 認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク理事長
ニュー・サウス・ウエールズ大学客員研究員、ボローニャ大学客員教授、法政大学大学院政策創造研究科教授などを経て、2013年同大名誉教授、2018年認定NPOキャリア権推進ネットワーク理事長。
【調査出典】
Indeed「企業の採用活動および求職者の仕事探しにおける課題調査」
Indeed「賃上げ率に関する調査結果」
【参照】
リクルート「『リクルートダイレクトスカウト』リニューアル 求職者と企業双方のより良いマッチングへ」
文/石原亜香利