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2018年に厚生労働省のモデル就業規則が改定され、「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」という文言が記された。
つまり、世の中の流れとして副業が容認されつつある。しかし、企業の中には就業規則において副業を禁止しているケースも少なくない。
今回は、副業を禁止している企業の割合や実際に副業を行っている人の割合、副業に関する過去の判例について解説する。
「副業禁止」と「副業している人」の実態
世間は副業が容認される流れになりつつある。
まずは、実際にどの程度の企業が副業を容認しているのか、副業を行っている人はどの程度いるのか確認しよう。
■副業を認めている企業は53%
一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の「副業・兼業に関するアンケート調査結果」によると、回答した企業の内、53.1%が社外での副業・兼業を「認めている」と回答し、17.5%が「認める予定」と回答した(2022年時点)。
あわせて70%以上の企業が副業を容認しており(予定を含む)、やはり副業を容認する流れはスタンダードといえるだろう。
なお、実際に副業・兼業を容認したことで得られた効果について、最も多かった回答は「多様な働き方へのニーズの尊重」で43.2%だった。また、「自律的なキャリア形成」が39.0%と続いている。
社員が副業・兼業を通じて本業だけでは得られない知識やスキルを習得できれば、本業でも活躍の幅が広がるだろう。本業においても高いパフォーマンスを発揮し、企業へ貢献してくれる可能性が高まる。「本業に集中してほしい」「情報漏洩を避けたい」という考えから副業を容認しない企業もあるが、今後はますます副業を容認する企業が増えるだろう。
※出典:一般社団法人日本経済団体連合会 「副業・兼業に関するアンケート調査結果」を公表
■副業している人は10%以下
独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った調査によると、「仕事をしている」者のうち、副業をしている人の割合は7.2%だった。副業を容認する企業が増えている中で、副業をしている人は10人に1人にも満たない。
なお、副業をする理由で最も多かった回答は「収入を増やしたいから」で54.9%だった。「1つの仕事だけでは収入が少なくて生活自体ができないから」が37.0%、「自分が活躍できる場を広げたいから」が23.9%と続いている。
昨今は賃上げが進んでいるとはいえ、物価も上昇しており生活に悪影響が出ている家庭も少なくないだろう。「本業だけでは生活が苦しい」という経済的な理由から、副業を始める人が多いと想定できる。
しかし、副業には副収入を得るだけでなく、新しいスキルや知識を習得できるメリットもある。人脈を広げて新しい価値観に触れられる期待も持てるため、副業を始めるメリットは大きい。
※出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「副業者の就業実態に関する調査」
就業規則における「副業禁止」の有効性
副業が容認される流れが進んでいる中で、就業規則で副業を禁止している企業も存在する。
まずは、副業に関する裁判の判例を紹介しよう。
■判例1:マンナ運輸事件
マンナ運輸事件とは、運送会社が準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことの正当性が争われた事件だ。
判例では、労働者は勤務時間以外の時間を自由に利用できるのが原則であり、使用者は労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを原則として認める必要があると述べられている。
なお、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じたりする恐れがある場合には、例外的に就業規則で副業・兼業を禁止することが許されるものと解されるとされている。
■判例2:東京都私立大学教授事件
東京都私立大学教授事件は、私立大学の教授が無許可で語学学校講師の業務に従事し、講義を休講したことを理由に懲戒解雇されたことの正当性が争われた事件だ。
この案件に関して、当該教授の副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず懲戒解雇は無効と判断された。
判決では、副業は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為である点が述べられている。また、職場秩序に影響せず使用者に対する労務提供に支障が出ない程度の副業であれば、副業を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないと解するのが相当であるとされた。
つまり、副業禁止の就業規則が設けられていても、本業に支障が出なければ実質的には規則違反にはあたらない、と判断されている。
■就業規則における副業禁止の捉え方
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」には、以下のような記載がある。
副業・兼業に関する裁判例においては、 ・労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であること ・例外的に、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができるとされた場合としては ①労務提供上の支障がある場合 ②業務上の秘密が漏洩する場合 ③競業により自社の利益が害される場合 ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 が認められている |
つまり、労務提供上の支障や業務上の秘密が漏洩するリスクがない場合、副業を容認すべきとされている。就業規則において副業が禁止されている場合、当該規則そのものが違法と考えられるケースもあるのだ。
日本の最高法規である日本国憲法第22条には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」とあるため、不当に副業を禁止するのは問題があるといえるだろう。
もし副業を始めたいと考えつつも、現在の職場で副業が禁止されている場合「副業を認めている会社へ転職する」「現在の職場に勤めながら隠れて副業する」「副業をあきらめる」という判断が求められる。
これまでの判例を見ると、「現在の職場に勤めながら隠れて副業する」という選択をしたあと副業が発覚しても、違法行為にはあたらない(公務員は除く)。法的責任を問われないのはもちろん、ただちに解雇されるリスクも低いだろう。
しかし、職場での居心地が悪くなったり、競業禁止・職務専念義務・法令順守・守秘義務などに違反していた場合は処分を受けたりする可能性は有り得る点には注意が必要だ。
※出典:厚生労働省 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
※出典:厚生労働省 「副業・兼業の現状」
まとめ
世間全体で副業を容認する流れが進んでいるものの、実際に副業を行っている人は少ない。しかし、副業は経済的なメリットだけでなくキャリアの面でもメリットをもたらすため、興味がある方は始めてみるとよいだろう。
これまでの判例を見ると、原則として職業選択の自由を不当に制限する副業禁止規定は否定されている。副業を行いやすい社会になりつつあるため、副業を始めようと考えている方にとって追い風といえるだろう。
文/柴田 充輝(しばた みつき)
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1000記事以上の執筆実績あり。保有資格はFP1級技能士、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。