イスラエルの企業が手掛ける「培養ウナギ」
6月、イスラエル・テルアビブのレストランにて、地元企業Forsea Foodsの細胞培養ウナギを使ったメニューの試食会が開催された。
イスラエル人にとって、ウナギは「宗教的な禁忌」である。旧約聖書には、ヒレや鱗のない魚は忌むべきものだと書かれているからだ。従って、此度の試食会は完全に日本での消費を想定したものと言い切ってもいいだろう。在イスラエル日本大使館公使の高橋誠一郎氏も、この試食会に参加している。
残念ながら、現時点で日本での試食会は未定のようだ。だが、この流れを見るからには東京での試食イベントも近いうちに執り行われるかもしれない。
細胞培養ウナギとは、言い換えれば「可食部だけを生産するウナギ」である。やや意地悪な表現を用いれば、人間にとって都合の良い部位だけを生み出し、そうでない部位は最初から作らないということである。
奇遇なことに、培養ウナギの技術的確立は完全養殖ウナギのそれと時を同じくしたのだ。
培養ウナギの「安全性」
とはいっても、筆者も含めた一般庶民からすれば「培養ウナギは本当に安全なのか?」という懸念がある。
が、実は培養ウナギは養殖ウナギよりもむしろ高い安全性を担保しているというのがForseaの見解だ。養殖施設にありがちな汚水とその中の汚染物質、そして薬剤などとも関係がなく、徹頭徹尾人間が食べられる部位だけを生産する。そのため、人体にとって有害なものが混ざることはないとのこと。
さらに、養殖施設を省ける分だけコストダウンも見込めるという。
となると、近い将来は上記の完全養殖ウナギと共に、培養ウナギも店頭に並ぶ可能性があるということか。パック詰めのウナギのラベルに「養殖」もしくは「培養」と印字されている……という光景も、数年後には実現し得るのだ。
ウナギは安くなっていく?
完全養殖も培養生産も、その大元をたどれば「天然のウナギ(もしくはシラスウナギ)を大量漁獲できなくなった」という要因に行き着く。
が、それが結果的に「ウナギの廉価化」をもたらすかもしれない。
天然資源に頼らず、需要に応じて生産量を調整できるようになれば、販売価格もより手頃になるはずだ。我々現代人にとって、うな重は毎日食べられるわけではない高価なメニュー。しかし、これが今後安くなっていく可能性は十分にあるだろうと筆者は推測する。
いずれにせよ、我々日本人がこよなく愛するウナギは大きな転換点を迎えているようだ。
【参考】
ウナギをめぐる状況と対策について-水産庁
2050年に完全養殖ウナギを食べられるのか これまでの成果の普及とこれからの取り組み-水産研究・教育機構 養殖部門
Forsea Foods
Forseaが培養うなぎを初披露、プレミア試食会を開催-PR TIMES
取材・文/澤田真一