■連載/ヒット商品開発秘話
布団乾燥機があると1 年を通じて布団のコンディションをいい状態にキープすることができる。持っていると何かと便利だが、現在注目を集めているのがカドーの『FOEHN 001(フェーン001)』である。
2023年12月に一般販売が始まった『FOEHN 001』は従来の布団乾燥機とは大きく異なるスティック型。家庭用布団乾燥機としては世界最小クラスを実現(同社調べ)し、小さいながら高風圧と高風速を実現した。クラウドファンディングでの先行販売分も含め、これまでに3万台以上が販売されている。
家庭用布団乾燥機で世界最小クラスを実現した『FOEHN(フェーン) 001』。フェーンとは山腹から吹きおろす乾燥した高温の風、風炎を意味するドイツ語のこと。価格は2万4200円(オンラインショップ「CLUB CADO」)
多幸感が得られるのに毎日使い続けられない布団乾燥器の課題
要素技術の開発を含めて完成までに3年ほど要したという『FOEHN 001』。布団乾燥機は誰もが使用価値を感じていながらも、使うまでが面倒であったりすることから使いこなせていない人が多いことに気づいたことが開発のきっかけになった。
これはどういうことか? マーケティング部 部長の金崎(かねざき)泰真氏は次のように説明する。
「布団乾燥機を使うと気持ちいい布団の中でゆっくり休めるといった多幸感が得られるにもかかわらず、いつしか使われなくなってしまうところがあります。大きな四角いボックスから蛇腹状のノズルを伸ばして布団の中に差し込んで使ったりしますが、ノズルが布団に干渉しないよう配慮したり、きちんと温風が送られる空間をつくっておいたりすることを毎日セットするのは難しいです。設置や収納が煩わしく毎日使い続けられないことが布団乾燥機の課題だと捉えました」
使えば多幸感が得られるのに使うまでの段取りが多く、せっかく購入してもだんだん使われなくなる。年間通して使えるものなのに毎日使えるようになっていなかった。布団乾燥機の課題をこう捉えた同社は強みにしていた送風技術を生かしてこの課題を解決し、毎日使いたくなる「ワンタッチ布団乾燥機」の開発を考えるようになった。金崎氏はこのように話す。
「有用性が高いのに季節の変わり目にしか使わないのは非常にもったいない感じがしました。高圧洗浄機と印象が似ていて使うまでに時間がかかるので、多幸感が得られるとしても、疲れてエネルギーが残っていない夜に使う準備をする気力は湧かないです」
布団全体を温めるには高風圧と高風速が必要
スティック型にしたのは使うまでの準備が必要最小限で済むからであった。電源コードをコンセントに接続し電源スイッチをONに入れたら、本体ごと布団に差し込んでコースを選択するだけ。温風を送るノズルだけを差し込むこれまでの布団乾燥機と異なり、本体ごと差し込むところが特徴だ。コースは「あたため」「乾燥」「ダニ対策」「送風」の4つが用意されている。
運転時の表示。01から順に、寝る前に布団を温めたい時に使う「温めコース」(10分間運転)、布団をしっかり乾燥させたい時に使う「乾燥コース」(60分間運転)、ダニ対策で使う「ダニ対策コース」(80分間運転)、布団や枕の気になるニオイを取る「送風コース」(120分間運転)となっている
要素技術の開発を進める中で同社は、布団全体を温めるには高風圧と高風速が必要だということを明らかにしていた。『FOEHN 001』は、風船を膨らますように高圧力で敷布団と掛布団の間を膨らませながら高風速で温風を足元まで送れるものを目指した。
高風圧を発生させるカギはファン。開発を担当した事業開発部 部長の喜内(きない)一彰氏は「一般的な布団乾燥機に使われているシロッコファンの10倍ぐらいのパワーを持つファンが必要でした」と明かす。
カドー
マーケティング部 部長 金崎泰真氏(右)
事業開発部 部長 喜内一彰氏(左)
高風圧を発生できるファンとして着目したのが、自社のドライヤーに採用したファンだった。一般的なシロッコファンは1分間に1000〜2000回転なのに対し、ドライヤーに使っていたファンは10万回転するため、風船が一瞬にして膨らむほどの高風圧を発生させることが可能。もともとドライヤーに使っていたものなので小さく、高風圧の実現と本体のコンパクト化に道が開けた。
従来の布団乾燥機と『FOEHN 001』の風圧比較。『FOEHN 001』はあっという間に風船を目一杯膨らませることができる
高風速は送風口の直径を調整したり本体をスリム化したりするなどして実現した。試作をつくっては検証しサーモグラフィーで布団の温度分布を計測。どれだけの風速があると足元まで届くのかを確かめながら調整を繰り返し、2メートル先まで届く高風速の発生を可能にした。
ダブルベッドサイズのサーモグラフィー検証。短時間で布団全体を温めることができると実証された
温められた布団をめくったところ。敷布団、掛け布団ともに温かくなっている
また、布団についてしまった汗臭などのニオイが取れるよう、オゾンを発生させるようにした。
「寝具では寝汗が原因の臭いが気になることがあります。当社では以前から、空気清浄機や除菌脱臭機でオゾン技術を活用しているので、これを活用すれば臭いを解消でき満足度が高くなると思いました」とオゾンを発生させることにした理由を明かす喜内氏。布団乾燥機の本体に発生装置を搭載することにした。
ただ、『FOEHN 001』のコンパクトボディに搭載できるオゾン発生装置はないので新規で設計。空間全体をオゾンで満たす必要はないのでオゾンの発生量が減らせる分、コンパクトにすることができた。