理想の職場・上司
「働きたい職場の特徴」について尋ねたところ、「お互いに個性を尊重する」(44.3%)が10年前と比較し12.7ポイントUPし過去最高、「アットホーム」(36.4%)は過去最低となった。
⇒「お互いに助けあう」「遠慮をせずに意見を言いあえる」が1位・2位となった。「お互いに助けあう」は調査開始以来、不動の1位だが、「遠慮をせずに意見を言いあえる」は調査開始以来、最高値での2位となった。
この2つの項目を選択した対象者の回答傾向を見たところ、いずれかではなくどちらも選択している割合が高く、「助けあう」と「遠慮をせずに言う」の両立を求めている傾向がうかがえた。
「お互いに助け合あう」は例年高い選択率である。教育の変化としてアクティブラーニングが取り入れられるようになり、グループワークやディスカッションなど、周囲のメンバーと共に課題に取り組む経験を通じて、助けあいながら成果をだす重要性を感じていると考えられる。
他方、個性尊重の時流を背景として、学生時代から、一人ひとりの個性を認め「誰でも自分自身の意見を発信できること」が当たり前の環境を経験しており、「言いたいことが言える」ことの重要性も感じていると考えられる。
この2つの特徴をあわせると、新人・若手社員はまさに「心理的安全性」*が担保された環境を求めていると言える。
*「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態(エドモンドソン1999)」のこと。居心地のよい場ということではなく、言いにくいことも含めて遠慮せず言い合えることがポイントとされる
図表4働きたい職場の特徴(調査1)
Q:あなたはどのような特徴を持つ職場で働きたいですか?
上司に期待することトップ2は、「相手の意見や考え方に耳を傾けること」(50.3%)、「一人ひとりに対して丁寧に指導すること」(45.9%)となり、最下位は「部下に仕事を任せること」(5.0%)となった。
図表5上司に期待すること(調査1)
Q:あなたが上司に期待することは何ですか?
仕事観の特徴
仕事をするうえで重視したいことトップ2は「成長」(32.2%)と「貢献」(23.1%)。「競争」(2.6%)は昨年に続き最下位となった。
⇒例年通り1位・2位の「成長」「貢献」に加えて、注目すべきは「専門性」が上位にきたことである。背景として、昨今の生成AIの台頭やジョブ型雇用の潮流、また、転職が“当たり前”の労働環境の中で、「自分自身の市場価値を上げたい」「将来性のある職業で専門性をつけたい」という、危機感をともなう意識の高まりがあると考えられる。
また、学校教育の中でも早い段階から自分自身のキャリアを考える機会が設けられていたり、インターネットやSNS上でもキャリアアップに役立つ情報が入手できたりする中で、自分自身の興味・関心領域を広げ、その中から専門的に学びたい事を選択する機会に触れてきていることも背景にあると考えられる。
図表6仕事をするうえで重視すること(調査2)
Q:あなたが仕事をする上で重視することは何ですか?当てはまるものに最大2つまでチェックを入れてください。
就職先での勤続意向は「現在の会社で勤め続けることにこだわらない・どちらかと言えばこだわらない」(52.1%)が「定年まで現在の会社で勤めたい・どちらかと言えば勤めたい」(41.4%)を上回った。
図表7就職先での勤続意向(調査1)
Q:あなたの考えにより近いのは、A・Bのどちらですか。
就職先の会社を選ぶうえで重視していたものトップ3は、「働いている人が魅力的・職場の人間関係がよい」(39.4%)、「自分らしく働ける・強みや持ち味を生かせる」(38.3%)、「仕事内容が魅力的・やりがいがある」(38.2%)。最下位は「周囲の意見やすすめ」(3.2%)となった。
図表8就職先の会社を選ぶうえで重視していたこと(調査1)
Q:あなたが就職先の会社を選ぶうえで重視していたものは何ですか?
■調査担当のコメント
近年、どのような企業でも新入社員育成の難度は高まっています。先輩・上司も正解を持てないビジネス環境の中で、どのようにすれば新入社員の成長を後押しし、共によりよい未来をつくっていけるでしょうか。
新入社員の近年の特徴として、「働くうえで大切にしたいこと」においては、確実性(任せられた仕事を確実に進めること)と挑戦性(失敗を恐れずにどんどん挑戦する)の二極化の傾向がうかがえます。
背景として、昨今、インターンシップに参加したり、起業や副業をしたりする学生も増え、早い段階から社会人経験や仕事経験を積んでいる新入社員にとっては、挑戦がより身近になってきています。一方、調べても分からないことや経験していないことに対しては、失敗への不安から、確実性を求める新入社員もいます。
このように、学生時代に「選択してきた経験」や、どんな情報に触れてきたかという「アクセスする情報」の違いを背景として、新入社員の大切にしたいことは多様化していると言えます。
また、「どのような特徴を持つ職場で働きたいか」においては、「お互いに助けあう」と「遠慮をせずに意見を言いあえる」が両立された職場を望む割合が増えています。この2つの特徴をあわせると、新人・
若手社員は、まさに「心理的安全性」が担保された環境を求めていると言えます。
個性尊重の時流を背景として、学生時代から、一人ひとりの個性を認め「誰でも自分自身の意見を発信できること」が当たり前の環境を経験しており、「言いたいことが言える」ことの重要性を感じていると考えられます。
このような特徴を持つ新入社員とともに働くうえでは、「多様な背景をもつ誰もが、言いたいことを言える」オープンな環境がキーとなると考えられます。環境をつくるための初動のタイミングでは、組織の中で「ゆるく」×「ひろく」進めていくことがポイントになります。
正解のないビジネス環境の中で、「何となくでも出してみる」「失敗しても大丈夫」という「ゆるさ」から生まれる安心感や、「異なる価値観を取り入れてみる」「いろんな人と繋がって進めてみる」という「ひろさ」から生まれる新しい視点が、オープンな環境をつくり、行動の第一歩の後押しになると考えます。
新入社員が徐々にオープンに発信・行動できるようになった段階以降は、言うべきことを伝え、本人の成長課題についてのフィードバックも伝えていくと効果的です。
このようなアプローチは、新入社員に限らず、同じく複雑で正解の持てない職場環境に身を置くすべてのメンバーにとってもヒントになると考えます。新入社員、先輩・上司の垣根を越えて、共によりよい未来を目指していけることを、切に願っています。
(解説/株式会社リクルートマネジメントソリューションズ・HRDサービス推進部トレーニングプログラム開発グループ研究員・関根彩夏(せきねあやか)氏)
構成/こじへい