人的資本経営では従業員のエンゲージメントを高めることも重要に
従業員エンゲージメントとは従業員一人ひとりが、企業が目指している姿に対して共感し、目指している姿の達成に向けて行動できている状態を指す。
「Q7. 従業員エンゲージメントを高めるために、エンゲージメントを図れるITツールを導入していますか」と質問したところ、84.8%は「導入していない」と回答した。大半の中小企業において従業員エンゲージメントを測る体制が整っていないことが明らかとなった。
「Q8. 従業員エンゲージメントを高めるために、企業理念やビジョンを従業員に向けて発信していますか」と尋ねたところ、「実施している」と回答した人は32.6%にとどまり、多くの中小企業において企業理念やビジョンの発信ができていないことが明らかとなった。
「Q9. 従業員エンゲージメントを高めるために、1on1など従業員一人一人と話す機会を設けていますか」と尋ねたところ、「設けている」と回答した人は37.3%となり、上記項目に比べると実施されている割合が高くなったものの、過半数の企業においては取り組めていない実態となった。
「Q10. 従業員エンゲージメントを高めるために、業務の裁量権を従業員一人一人に広く持たせていますか」と質問したところ、「持たせている」と回答した人は43.4%となり、こちらの項目もQ7,8に比べると実施されている割合が高くなったものの、過半数の企業においては取り組めていない実態となった。
従業員エンゲージメントに関しても中小企業においては未だ取り組めていない企業が非常に多く、またエンゲージメントを測る体制の構築が特に取り組めていないことがわかった。
Q9,10においては、他の項目に比べると取り組めている割合が高く、大企業に比べて中小企業は従業員の人数が少ないことから、従業員と話す機会や裁量権が広い体制が構築されていると推察できる。しかし、従業員のエンゲージメントを高めるには、Q7,8も重要であり、Q1からもわかるように、まず人的資本経営に関する理解の促進が中小企業においては必要だと捉えられる。
人材確保・従業員のエンゲージメント両面において、中小企業では十分には取り組めていない状況
「Q11.必要な労働力確保のために採用による人材を確保できていますか」と質問したところ、「人材を確保できていない」と回答した人は48.4%となり、半数近くの中小企業において必要な人材確保ができていないという結果となった。
これまでの設問から、人的資本経営のための資金確保や従業員エンゲージメントの向上など、人的資本経営に重要なポイントへの取り組みや、そもそもの人的資本経営への理解が足りていない現状が明らかとなったが、人材確保の課題解決の一つの手段として人的資本経営に取り組む必要性が中小企業においても高まっていると推察できる。
【有識者のコメント】中小企業の人的資本経営について
今回は、人的資本経営への認知度や取り組みについての調査結果をまとめました。
人的資本経営とは人材を企業価値を向上させるために不可欠な資本と捉え、価値を生み出すものとして投資するという考え方で、従来の人材はコストという考え方とは異なる新しい考え方です。
中小企業経営者に、この人的資本経営への認知度、取り組み意欲、取り組み度合いについて伺ったところ、いずれも進んでいない状況が明らかになりました。
具体的な取り組み状況を見ると、人材育成についての予算の確保ができている企業は約1割、DXやGXを推進できる人材を社内、社外に確保している企業については5~10%と少数にとどまりました。
人的資本経営の必要性は非常に高まっています。企業理念・ビジョンを社内に発信するとともに、従業員との1on1面談やITツール等を使った会社へのエンゲージメントの可視化を行い、企業理念・ビジョンが浸透しているか確認を行う必要があるでしょう。
このような取り組みを他の企業より早く取り組むことにより市場や求職者から選ばれる企業になれる可能性も高まると考えられます。
中小企業の人材確保状況は5割に達していないことも明らかになりましたが、今後、人的資本経営に取り組むことでこの状況を打破できる可能性があります。人的資本経営を進めるためには、まず、人的資本経営への理解を深めたり、既に取り組んでいる中小企業の事例を参考にする。また、自社だけで取り組もうとせずに積極的に専門家に相談したり、伴走支援をしてもらうといった形で臨んでいただければと思います。
(解説/フォーバル GDXリサーチ研究所所長・平良 学(たいら・まなぶ)氏)
●経歴
1992年、株式会社フォーバルに入社。
その後営業部長を経験。2001年からは九州支店に所属し、赤字経営の立て直し、コンサル事業の立ち上げに成功。以降アライアンス事業の事業責任者を全うする。
現在は、全国のコンサル事業の全体統括や「ブルーレポート」の統括、国・行政との連携を行う事業の責任者を務める。
数々のメディア掲載実績を持ち、中小企業経営者を対象とした経営塾の講師、DXを始めとするウェビナーにも数多く登壇している。
2022年10月 フォーバル GDXリサーチ研究所 所長に就任。
2023年9月 「経済通商諮問団」委員に就任(2023年9月20日~12月31日)。
<調査概要>
・調査主体 :フォーバル GDXリサーチ研究所
・調査期間 :2023年12月11日~2024年2月8日
・調査対象者 :全国の中小企業経営者
・調査方法 :ウェブでのアンケートを実施し、回答を分析
・有効回答数 :973
構成/こじへい