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私傷病とは、「業務外で起きた怪我や病気」を指す。また、私傷病休職は、従業員が業務外の病気やケガにより就業できない場合に企業が一定期間の就業免除を提供する制度だ。
この休職の内容や期間については、法律で規定されているわけではなく、各企業が独自に定めている。したがって、企業によっては約3ヶ月程度の短い期間を設けるところもあれば、1〜2年という長期間を設定するところもあり個別の対応が多い。
また、健康保険制度に傷病手当金があり、支給開始から最長1年6か月支給される保障もあるので、ビジネスパーソンとしては、これは知っておいて損はない知識だろう。本記事では、欠勤との違いや手当の対象範囲などにも触れ、詳しく解説する。
私傷病とは
さっそく、私傷病の意味とビジネスにおける私傷病について解説しよう。
■私傷病の意味
私傷病とは、「業務外で起きた怪我や病気」を指す。例えば、帰宅後や休日に怪我をした場合や、業務とは無関係の病気がこれに含まれることになる。
■ビジネスシーンにおける「私傷病」
独立行政法人労働政策研究・研修機構「病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)」によると、病気治療と仕事の両立に関する企業調査において、休職期間(欠勤期間を含む)の実態は以下の通り。これは就業規則策定時の参考にもなり、従業員としても概要を知っておくと安心だろう。
- 雇用保障期間(解雇や退職にならない期間)
- 「6か月超から1年まで」・・・ 19.0%
- 「3か月超から6か月まで」・・・ 13.9%
- 「1年超から1年6か月まで」・・・ 11.4%
- 「1か月超から3か月まで」・・・ 11.0%
- 「上限なし」・・・ 8.2%
また、これらの期間は、勤続年数に応じて差がある企業も多いようだ。例えば、勤続1年未満の社員は最大「3か月」、1年以上3年未満の社員は最大「6か月」、3年以上の社員は最大「1年」とされているケースがある。
休職期間中の社会保険料は、本人負担と会社負担の両方が発生する。本人が負担できない場合、企業が立て替えや賞与での相殺を行うのが一般的だ。
※出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)」
私傷病休職制度とは
私傷病休職制度は、一般的な「休職制度」の中で、私傷病を理由にするものである。業務中の怪我や通勤途中の事故は、労災保険によって補償される。
労災の場合、労働基準法により、会社は一定の休業期間とその後30日間の間、解雇できないことになる。しかし、業務とは無関係の私傷病の場合、会社は社員を雇い続ける法的義務がないことが重要である。
■私傷病休職制度の概要
会社ごとに異なる私傷病休職制度が存在し、その内容は様々だ。この制度は会社が独自に定めるものであり、有給であったり無給であったり、取得可能な時間や日数、具体的なルールについても各企業ごとに異なっている。具体的な私傷病休職制度の例としては、以下のようなものが挙げられる。
まず、時間単位や半日単位で取得できる休暇制度があるのが一般的だ。これにより、短時間の休暇が可能となる。また、年次有給休暇を組み合わせて、長期の療養時に使用できる失効年休積立制度など、年次有給休暇とは別に設けられる病気休暇も、健康管理や早期回復をサポートするため重要だ。
さらに、療養中や療養後の短時間勤務制度がある企業もあり、柔軟な復帰支援を行っている場合もある。私傷病休職期間中の給与支給についても、企業の方針により異なるが、長期休職中の給与支給を維持する企業は少ない。
私傷病休職中の社員にとって、健康保険からの傷病手当金が重要な生活保障となる。これは、業務外の病気や怪我により通常の労働が不可能となった場合に支給され、労働者が受け取る給与の2/3相当額を最長1年6ヶ月まで受け取ることができる。ただし、会社からの給与が支払われている期間には支給されないのが一般的だ。
病気や怪我の療養が長期化し、休職期間を超えても復帰できない場合、多くの企業では就業規則に従い「休職期間満了までに復職できない場合は退職扱い」としている。これは、一見すると不当な解雇のように思えるが、病気やケガが業務とは無関係である場合、法的に適正な措置とされている。
病気やケガによる退職は残念なことではあるが、企業にとっても労務管理の観点から、雇用関係を解消することが時には不可避である。従って、休職期間終了後の雇用関係解消については、明確に就業規則で定めることが重要となる。
※出典:厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
■私傷病休職制度と欠勤との違い
休職とは、労働者が業務に従事することができない、または適当でない事由が生じた場合に、会社が労働契約を維持しながら、労務の免除を行う制度だ。この制度は法律で定められていないため、会社は自由に導入の可否を決めることができる。したがって、休職制度を導入している会社でも、その種類や休職中の待遇などは会社ごとに異なる。
休業とは、労働者が働く意思はあるが、会社から働く機会が拒否されたり、自身の事情で働くことが困難な場合を指す。会社側の事情による休業と労働者側の事情による休業の2種類があり、会社側の事情には業務災害による休業や経営上の理由による業務停止が含まれる。一方、労働者側の事情による休業には、産前産後休業や育児休業、介護休業などである。
欠勤は、法的に定められた制度ではなく、通常、労働者が自身の都合で労働日を休むことを指す。会社によって「欠勤」の定義は異なり、一般には「無断欠勤」や会社の承認を得ての休暇も含まれることが多いだろう。
■私傷病休職制度の範囲
休職制度には多様な形態があり、企業が自由に設定できるが、労働者の権利と義務に関わる重要な事項であり、休職制度を設ける場合は必ず就業規則にその内容を明記しなければならないとされている。
労働基準法の89条では、すべての労働者に適用される規定を就業規則に明記することを義務付けている。就業規則には、絶対的に必要な記載事項と相対的に必要な記載事項があり、休職制度は後者である。
さらに、労働契約法の7条では、合理的な労働条件が就業規則に定められており、労働者に周知されている場合、それが労働契約の一部である。
したがって、休職を命じる根拠がない場合、就業規則に基づいて休職を命じることはできない点に注意が必要だ。具体的には、病気や怪我で通常の労務提供ができず、一定期間の休職が必要な場合に備えた規定が就業規則になければ、私傷病による休職を命じることはできない。
軽度の病気や怪我で、通院しながらでも勤務可能な場合には、休職を命じることが合理的でないと判断され、権利の乱用として無効となることとなる。従業員の労務提供能力や回復に必要な期間、代替業務の有無などを考慮し、休職命令を慎重に行うことが重要である。
まとめ
私傷病休暇は法的に義務付けられた制度ではなく、企業が自主的に設けるものである。しかしながら、近年では多くの企業がこの制度を採用している。背景には、将来的に人手不足が進む中で、従業員が安心して長期間働ける環境を整えることが、企業にとってますます重要な課題となることだ。そのため、私傷病休暇を導入する企業が増加することが予測される。
従業員にとって、病気や怪我のリスクは常に存在するが、私傷病休暇が設置されている企業であれば安心だ。企業側にとっても、従業員が安心して働ける環境を整えることは、優秀な人材の安定確保につながる重要な要素となるだろう。
文/真南風文藝工房(まはえぶんげいこうぼう)
自動車メーカーでの先行開発エンジニアを経験した後、理系教科書編集(高校数学・中学校理科教科書編集)職に転向。近年は、サイエンスライティングに加え、理系・元エンジニアとしての経験を活かし、就職活動サイトコラム執筆や人事・広報ライティングなど、幅広い分野での執筆活動に取り組んでいる。