目次
労働分配率は、企業の収益性と効率性を示す重要な指標である。本記事では、労働分配率の計算方法や目安、業種別ランキングについてわかりやすく解説しよう。
また、適正な労働分配率の考え方や、労働分配率が高い・低い場合の特徴も紹介する。本記事を読むことで労働分配率の考え方を理解し、自社の経営と社員の長期的な健康状態を良くできるだろう。
労働分配率とは?
労働分配率は、企業が生み出した付加価値のうち、人件費にどれだけ割り当てられているかを示す指標である。この指標を用いることで、企業の健全性や経営効率を評価することができる。
■労働分配率の定義
労働分配率とは、企業が生み出した付加価値(売上から原材料費や外注費などを差し引いたもの)のうち、人件費が占める割合である。この割合が高ければ、人件費が多くの付加価値を占めていることを意味し、低ければ、人件費の割合が相対的に小さいことを意味する。
労働分配率が高いケースの特徴:
労働分配率が高い場合、企業は従業員に対する報酬を手厚くしていることが多い。特にサービス業や教育業界など、人材が重要な役割を果たす業種では、労働分配率が高くなる傾向がある。従業員のモチベーションや満足度が高く、生産性も向上する可能性があるため、長期的な視点で見ればプラスになることも多い。
労働分配率が低いケースの特徴 :
一方で、労働分配率が低い場合、企業は効率的な経営を行っているか、または人件費を抑えている可能性がある。製造業やIT業界などでは、労働分配率が低くなることが一般的である。
これにより、企業は利益を再投資に回す余裕が生まれ、さらなる成長を目指すことができる。ただし、過度に低い労働分配率は、従業員の離職率が高くなりやすいというリスクもある。
■労働分配率の使い方
労働分配率は、企業の経営状態を評価する際に重要な指標となる。特に投資家や経営者にとって、労働分配率を把握することは、企業の収益性や効率性を理解する上で欠かせない。また、同業他社との比較や、業界全体のトレンドを把握するためにも役立つ。
労働分配率の計算方法
労働分配率の計算は比較的簡単である。具体的な計算方法とその式を紹介する。
■労働分配率の計算式
労働分配率は以下の計算式で求めることができる。
労働分配率 = (人件費 / 付加価値)× 100
例えば、付加価値が1億円で、人件費が5000万円の場合、労働分配率は50%となる。この計算式を用いることで、企業は自社の労働分配率を簡単に算出することができる。
■労働分配率の計算例
具体的な例を挙げると、ある企業A社の年間付加価値が2億円で、人件費が8000万円とすると、労働分配率は40%となる。この値は、企業の健全性を判断する一つの指標となる。
さらに別の例を挙げると、B社の年間付加価値が5億円で、人件費が2億5000万円の場合、労働分配率は50%となる。このように、労働分配率は企業ごとに異なるが、その企業の経営方針や業界の特性を反映する重要な指標となる。
業種別の労働分配率の意味と目安
労働分配率は業種によってその意味合いが大きく異なる。ここでは見方と、業務種別の目安を説明する。
労働分配率の業種別適正値とその意味
労働分配率は時間とともに変化することがある。企業の成長や経営方針の変更、経済状況の変動などが影響を与えるためである。労働分配率の推移を把握することは、企業の長期的な経営戦略を立てる上で非常に重要である。
労働分配率の上昇
労働分配率が上昇する場合、企業は従業員に対する投資を増やしていることを意味する。これにより、従業員の満足度や生産性が向上し、企業の成長に繋がる可能性がある。ただし、人件費が過剰になると、企業の利益を圧迫するリスクもあるため、バランスが重要である。
労働分配率の低下
労働分配率が低下する場合、企業はコスト削減や効率化を進めていることを示す。これにより、企業は利益を確保し、再投資に回す余裕が生まれる。ただし、過度なコスト削減は従業員の士気を低下させる可能性があるため、注意が必要である。
業種によって労働分配率の目安は異なる。以下に、主要な業種別の労働分配率の目安を紹介する。
・サービス業:一般的に60%以上。サービス業は人材に大きく依存するため、労働分配率が高くなる傾向がある。ここではコンサルティングやマッサージなどの人手によるサービスだけでなく、小売業なども含まれることに注意したい。
・製造業:20%から40%。製造業は設備投資が大きく、効率的な生産を行うため、労働分配率は比較的低くなる。日本企業は未だ世界的に生産性が高く、労働分配率が小さい傾向にあるが、社員への分配率が低いわけではない。
・IT業界:30%から50%。IT業界は人材が重要だが、高い付加価値を生み出すことができるため、労働分配率は中程度。IT業界の場合はITコンサルを行う企業も含まれるため、さらに付加価値が高い傾向になり、労働分配率に影響を与えている。
・教育業界:50%から70%。教育業界は人材に依存するため、労働分配率が高くなることが多い。ここでは公立学校は含まれず、塾や予備校、英語教室などが含まれる。子供の教育には特にお金をかけてでも良い環境を準備したいという親が多く、付加価値は高くなり、労働分配率も高くなる傾向にある。
このように、業種ごとに適正な労働分配率は異なるため、業界の平均値を参考にすることが重要である。また、企業は自身の業界内でのポジションを理解し、他社との比較を行うことで、自社の労働分配率が適正であるかどうかを判断することができる。
労働分配率の適正値を見るための軸
労働分配率の適正値は、業種以外にも企業の経営方針によっても異なる。一般的には、以下のポイントを考慮して適正値を判断することが推奨される。
業界平均との比較
自社の労働分配率が業界平均と比較してどの程度かを把握することが重要である。これにより、自社のポジションを理解し、改善の余地があるかどうかを判断することができる。
企業の成長ステージ
企業の成長ステージによっても適正な労働分配率は変わる。スタートアップ企業は成長を重視するため、労働分配率が高くなることが多い。一方、成熟企業は効率性を重視するため、労働分配率が低くなることが一般的である。衰退期に入った企業ではその傾向がより顕著になる。
経営戦略
企業の経営戦略によっても労働分配率は異なる。例えば、高付加価値化を目指す企業、人材育成を重視する企業は労働分配率が高くなる傾向があるが、コスト削減を重視する企業は労働分配率が低くなることが多い。
経営戦略はそれを実現するために組織体制や人事制度を変更するため、経営戦略に変更があれば労働分配率もゆっくりではあるが徐々に変化する。逆に言えば、経営戦略の変更が着実に実行されている証左ともなる。
まとめ
労働分配率は、企業の収益性や効率性を評価する上で欠かせない指標だ。適正な労働分配率を維持することは、企業の健全な経営を実現するために重要である。本記事で紹介した計算方法や業種別の目安を参考に、自社の労働分配率を見直してみてはいかがだろうか。
適正な労働分配率を維持することで、企業は持続可能な成長を実現し、従業員の満足度を高めることができる。労働分配率の推移を定期的にチェックし、必要に応じて改善を行うことで、企業の健全な経営をサポートすることができるだろう。
文/諏訪 光(すわ ひかる)
大手ネット系企業にて10数年に渡りプログラマーからプロダクトマネージャーまでを幅広く経験。新規事業から企業再生に至るまで様々な案件の開発に携わる。DX推進者や起業経験を経て現在は大手信託銀行でDX推進を行いながら、フリーランスの新規事業、DX、デジタルマーケティングのコンサルティングも行う。