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意外と知らない「所定労働時間」と「法定労働時間」の違いとは?

2024.08.01

「所定労働時間」とは、始業から終業までの時間から休憩時間を除いた労働時間のことだ。毎月の給与に直結することもあり、自分の所定労働時間は正確に把握している一方で、はっきりわからないことも多い。残業や休憩時間の計算で、疑問に感じた方もいるかもしれない。

この記事では、所定労働時間の定義から、残業・休憩時間との関連性、よく似た言葉である「法定労働時間」との違いも解説する。

所定労働時間とは

まずは「所定労働時間」の定義から、紐解いていこう。

■所定労働時間

「所定労働時間」とは、始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間を指す。就業規則や雇用契約書、労働条件通知書等で定められている会社独自の規定だ。

そのため、所定労働時間は会社ごとに違う。また、正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態や、労働者個人でも異なるケースがある。

たとえば、1日6時間勤務と5時間勤務のアルバイトの方がいたとする。この場合、6時間または5時間が、それぞれの所定労働時間である。なお、所定労働時間は、有給休暇の日数とも関係している。週の所定労働時間30時間未満の場合は、働く日数に応じて付与日数が変わるのだ。

■所定労働時間の計算方法

次に、月給制での割増賃金の計算のために必要な、1か月の平均所定労働時間の計算方法を紹介する。

  1. 365日(366日)から年間休日の合計数を差し引く。(「1年間の総勤務日数」)
  2. 1年間の総勤務日数に1日の所定労働時間をかける。(「年間所定労働時間」)
  3. 年間所定労働時間を12か月で割る。

■計算式

(365日/366日-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12か月

以下の例で、実際に計算してみよう。

・年間休日数 120日

・1日の所定労働時間 8時間

この会社の1か月の平均所定労働時間は、

(365日-120日)×8時間÷12か月≒163.3時間

となる。

なお会社が「変形労働時間制」を採用している時は、1か月や1年といった期間の総枠労働時間から月の平均労働時間を計算する。

■所定労働時間の確認方法

所定労働時間は、就業規則を確認することでわかる。所定労働時間の根拠となる始業、終業時刻、休憩時間が規定されているからだ。

そのほか、入社時や契約更新時に書面やメールで配布される雇用契約書や労働条件通知書にも記載されている。

■法定労働時間との違い

法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限で、1日8時間、1週間では40時間である。

なお、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客・娯楽業の会社で規模が10人未満の場合は、1週間の上限時間が44時間となる。

所定労働時間と法定労働時間との主な違いは2つある。

1つ目の違いは、所定労働時間が会社の独自規定であるのに対して、法定労働時間は法律上の規定という点だ。

言い換えれば、会社は法定労働時間を逸脱することはできないが、所定労働時間に関しては自由に決めることができる。しかし、独自規定といっても、無制限に決めることはできない。

所定労働時間は、法定労働時間内で定めなければならず、超えた時間は、原則無効になる。有効とするには、従業員と会社との間で「時間外労働・休日労働に関する労使協定「36(サブロク協定)」という特別な協定の締結と労働基準監督署への届出が必要で、その場合でも、割増賃金の支払義務は免除されない。

ちなみに変形労働時間制の場合は、前述したように期間の総枠で労働時間を考えるため、平均して法定労働時間を超えない総枠時間に収まるならば、一定の日について8時間を超えても問題ない。

割増賃金の種類と割増率は次の通りだ。

種類

条件

割増率

時間外労働

法定労働時間を超えたとき

25%以上

1か月・1年の限度時間を超えたとき※1

1か月60時間を超えたとき

50%以上

休日労働

法定休日に働いたとき

35%以上

深夜労働

22時から5時までの間に働いたとき

25%以上

※1 36協定に定める時間外労働の上限時間:1か月45時間、1年360時間など。

時間外労働や休日労働が深夜に及んだ場合の割増賃金は、複合して計算できる。

・時間外労働+深夜労働 25%+25%=50%以上

・休日労働+深夜労働  35%+25%=60%以上

上記の表のように、割増賃金の対象になるのは、法定労働時間を超えた残業であり、所定労働時間内の残業は対象にならない。

割増賃金支給の基準になるかどうか、これが、所定労働時間と法定労働時間との2つ目の違いだ。

次章では、残業、そして休憩時間について、より詳しく見ていこう。

※出典:厚生労働省「労働基準法の基礎知識」

   :厚生労働省「しっかりマスター割増賃金編」

残業・休憩時間の理解は所定労働時間の知識が必要!

残業したはずなのに、割増賃金がついていなかった。休憩が1時間だと思っていたが、上司に45分だと言われるとがっかりしてしまうだろう。

残業と休憩時間に関する行き違いは、いつまでも引きずってしまうものだ。しかし、所定労働時間との関係を理解することで、待遇面での疑問や不安も解消できることもある。まず、残業時間から解説する。

■所定労働時間と残業時間

実は残業時間には2種類ある。「法定時間内残業」と「法定時間外残業」だ。

法定時間内残業とは、所定労働時間は超えるが、法定労働時間内に収まる残業、法定時間外残業とは、法定労働時間を超える残業である。

先ほど述べた通り、割増賃金の対象となるのは、あくまで法定労働時間を超えた残業になるため、法定時間内残業には割増賃金はつかない。

たとえば、始業時刻が10時、終業時刻が18時、休憩1時間の会社で、18時から20時まで2時間残業したとする。この場合、2時間の残業手当の計算は下図のようになる。

※図版:筆者作成

残業手当2時間分の内訳

(通常の賃金×1時間)+(通常の賃金×125%×1時間)

残業が18時から23時までの5時間だった場合は次の通りだ。

※図版:筆者作成

残業手当5時間分の内訳

(通常の賃金×1時間)+(通常の賃金×125%×3時間)+(通常の賃金×150%×1時間)

このように、所定労働時間と法定労働時間の違いは、割増賃金の額に大きく影響している。

■所定労働時間と休憩時間

次に、所定労働時間と休憩時間だが、こちらも法律の規定が関係している。

労働基準法では、会社は、正社員、パート、アルバイトなど雇用形態に関わらず、従業員に休憩を与える義務があるとし、付与時間は次のように規定されている。

勤務時間

休憩時間

6時間以内

0時間(付与する義務なし)

6時間を超え8時間以内

45分以上

8時間超え

1時間以上

このように、付与義務のある休憩時間は一律ではなく、実際の勤務時間によって異なる。

たとえば、10時から17時まで勤務だった場合、勤務時間はトータル7時間となり、45分休憩となる。この場合の所定労働時間は、7時間-45分=6時間15分だ。

勤務時間から必ず1時間を引いたものが所定労働時間ではない。休憩時間の変動に影響を受け、勤務時間が6時間以内の場合は、勤務時間=所定労働時間となる。

※出典:厚生労働省「しっかりマスター割増賃金編」

※出典:厚生労働省「労働基準法の基礎知識」

まとめ

所定労働時間とは、就業規則などで定められた会社独自の労働時間だ。割増賃金の計算で法定労働時間との違いがあり、休憩時間とも互いに関連している。このため、待遇面での誤解を招く引き金にもなりやすい。仕事に気持ちよく集中するためにも、所定労働時間の知識を深めていこう。

文/木戸史(きどふみ)

立命館大学文学部卒業後、営業、事務職、編集アシスタントなどを経て、社会保険労務士事務所で社労士として勤務。現在はライターとして活動しており、社労士として多くの中小企業に携わった経験を生かし、ビジネスマンに役立つ法律知識をできるだけわかりやすく発信している。

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