■連載/ヒット商品開発秘話
メイクブラシを使いこなすのは難しそう。使ったことがない人やメイク初心者はこう思うのではないだろうか?
しかし現在、上級者だけではなく初心者もメイクの仕上がりに満足できるメイクブラシが好評を博している。ウエルシア薬局のプライベートブランド(PB)『からだWelcia・くらしWelcia』から発売された『5秒で感動!メイクブラシ』シリーズのことである。
2022年12月に発売された『5秒で感動!メイクブラシ』シリーズは、フェイスブラシ、チークブラシ、アイシャドウブラシ、アイブロウブラシ、ファンデーションブラシの5 本をラインアップ。粉含みや肌への付きがいいことに加え、チクチクせず肌当たりがいい、といった特徴を持つ。2024年5月末時点で累計18万本超が販売されている。
左からフェイスブラシ、チークブラシ、ファンデーションブラシ、アイブロウブラシ、アイシャドウブラシ。価格はフェイスブラシが2178円、チークブラシとファンデーションブラシが1848円、アイブロウブラシとアイシャドウブラシが968円(以上税込)
「難しい」は思い込み 簡単に使え仕上がりに感動するほど
『からだWelcia』のビューティー商品は成分、地球環境への配慮、クルエルティーフリー(開発から販売の全過程で動物実験を一切行なわない)の3つにこだわって開発されている。『5秒で感動!メイクブラシ』シリーズはクルエルティーフリーを強く意識して開発。どのブラシも獣毛ではなく人工毛が使われている。
企画から発売に至るまでには1年以上を要したという『5秒で感動!メイクブラシ』シリーズ。開発の背景には、コロナ禍により家で過ごす時間が増え、自分の肌に向き合う時間ができたことがあった。
開発を担当した商品本部商品企画部の古田(こだ)愛香さんは次のように話す。
「メイクの仕方を変えたくても、どうやって変えたらいいのかわからない中、百貨店とかではタッチアップが中止になり体験する機会が減りました。しかしその一方で、いろんなSNSで情報を入手することができるようになっていました」
この変化を古田さんは、メイクブラシのユーザーを掘り越せるチャンスと捉えた。その理由は、使うと感動するほどいい仕上がりになることに由来する。これは古田さん自身の実感でもあり、「難しそう」というイメージは思い込みだという。
「本当は簡単に使えるのですが、使ったことがない人のほうが多いので難しくハードルが高そうに見えているところがあります。化粧する時はパフや化粧品に付属する道具で済ませてしまうことが多く、メイクブラシを使うとどんなふうに変わるといった知識などがまだ十分浸透していません」
古田さんは、さらにこう続ける。
「メイクは薄く重ねていかないと長持ちしませんが、メイクブラシは薄く重ねやすいので持ちが良くなります。今まで使っていた道具をメイクブラシに変えることで、キレイに仕上がり腕が劇的に上がったように見えるところに注目してもらいたいと思いました」
リス毛をベンチマークして開発された人工毛を採用
開発は現在販売されている5本からシリーズ展開することを決めて進められた。
「クオリティーの高いもの、納得のいくものができるまで妥協しなかったので、開発に時間をかけました」と振り返る古田さん。
フェイスブラシ、チークブラシ、アイシャドウブラシには、柔らかいのが特徴のリス毛をベンチマークして開発されたTAfrE®(タフレ)を使うことにした(登録商標の®マークは以下省略)。TAfrEには粉含みや発色の良さを実現するキューティクル状加工、波状加工を施し毛束にした時に立体感が生まれ、獣毛に近いボリューム感と粉含みを実現する3Dクリンプ加工という特許技術が用いられている。アイブロウブラシとファンデーションブラシに関しては、3Dクリンプ加工に代わり抗菌剤を練り込んだAg-TAfrE®を採用することにした。
開発で苦戦したものの1つがアイシャドウブラシ。マスク生活でアイメイクが変わってきたことからアイホール(目頭から目尻にかけて広がる半円状の上まぶたのくぼみ一帯)をつくる形状で悩んだという。
いろんな形が検討されたが、最終的には横から見ると斜めにカットされているように見えるラウンドカットされた小さめのものになった。目元にピンポイントで締め色(まぶたのキワに入れて目元を引き締めたように見せる効果があるダークカラー)を乗せるのに適しただけではなく、流行している下まぶたのメイクに対応できることから採用した。
メイクブラシは1回使っただけでは良さがわからないことから、テストは期間を長めに設定して実施した。
テストは商品開発に携わる女性社員のほか、店舗の教育を担当する部門を巻き込んで実施。ブラシメイクの初心者と、店頭のビューティーアドバイザーを指導するブラシメイクのベテランの両方を厳選し、試作品が完成するたびに一定期間使い続けてもらった。
テストで得られた声から実現したのが、使わない時に毛先にかぶせるカバーの採用。家で使うことを念頭に置いたサイズだが、化粧ポーチにギリギリで収まることもあり、旅行先などでも使えるよう化粧ポーチに入れておきたいと要望が挙がった。