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ニュースや社内で「エンパワメント」という言葉を見聞きしたことはあるだろうか。「権限を与える」という意味を持つ言葉で、ビジネスシーンはもちろん、教育や看護・福祉の分野で使われる言葉だ。
本記事では、エンパワメントの正しい意味や由来、企業でのエンパワメントについてわかりやすく解説する。また分野別の言葉の使い方の違いも確認しておこう。
エンパワメントの意味と由来
まずは、エンパワメントの基本的な意味や、言葉が使われるようになった背景を簡単に解説する。
■意味
エンパワメント(empowerment)は「権限を与える」「力を与える」の意味を持つ言葉。「従業員をエンパワーする」などと動詞として使われることもある。
また、自分で意思決定をしながら生きる力を身につけるといった考え方も示す。
■由来
エンパワメントは、1970年代のアメリカ公民権運動で使われ始めた言葉。
エンパワメントは、人が本来持つ能力や権限が社会的抑圧によって発揮できなくなるといった考えに基づき、必要性が訴えられた。人種差別解消運動や女性の権利獲得運動の中で、抑圧された人々が力を発揮し、地位向上を目指す意味で広まった。
■エンパワメントが注目されている理由
ビジネスシーンでは、「権限委譲」や「能力開花」の意味合いで使用される。特に組織づくりにおいてエンパワメントが重視されている。
エンパワメントが現代のビジネスシーンで注目される背景には、未来予測が難しいVUCA時代であること、少子高齢化による急速な人材育成の必要性の2点が挙げられる。
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、現代社会の状況を表している。さらに、AIなどの技術革新やグローバル化など、状況が急激に変化しやすい環境の中で企業が生き残るには、素早い意思決定が求められる。経営層だけでなく、プレイヤーとなる社員にも決定権を認めることでスピーディーな経営が目指されている。
また、少子高齢化によって人材不足が叫ばれる中、社員の育成も重要な課題だ。社員に権限を与えることで幅広い経験を積ませ、戦力となる人材の早期育成が期待されている。
分野別・エンパワメントの使い方
次に、分野ごとに異なるエンパワメントの使い方を確認しよう。
■ビジネス
ビジネスシーンでのエンパワメントは、「権限委譲」と訳す。企業でのエンパワメントは、上司の権限を部下に付与することと言い換えられる。これは、社員に主体的な行動を促すことが目的だ。社員の能力を引き出すことにもつながり、企業としてのパフォーマンスアップにつながる。
■看護、介護、福祉
看護や介護におけるエンパワメントは、患者主体がキーワードとなる。看護や介護業界では、医者や看護師、介護士が主体で、患者やその家族が受け身となる構造になりがちだ。エンパワメントによって、患者本人が自らの意思で治療に参加する環境作りが行なわれる。
福祉業界におけるエンパワメントは、社会的に不利な状況に置かれた人の自己実現を目指す意味合いで使われる。ハンディキャップに着目するのではなく、個人の力を引き出すことを重視するのが特徴。援助を受ける側は、自身の能力に気づき、主体的にニーズを満たすために行動するようになる。
■教育
教育の現場でのエンパワメントは、生徒の持つ潜在的な能力を引き出し、人生を切り開くスキルや自己肯定感を身につけさせることを示す。
そのための一つの方法として、生徒が学びに主体的に取り組めるよう、選択や決定ができる機会を増やす取り組みが行われている。また、教師が一方的に教えるよりも、生徒の興味関心や、他者との対話を重視し、生徒が自ら学ぶアクティブラーニングも採用されている。
企業がエンパワメントを実施するメリットと注意点
最後に、企業がエンパワメントを導入することで得られるメリットと、導入の際に注意すべき点を確認していこう。
■メリット
これまで説明してきたように、エンパワメント導入のメリットとしては企業の意思決定のスピードアップや社員の潜在能力を引き出すことなどが挙げられる。
他にも、エンパワメントの導入は、主体性を持って業務に取り組む社員が増えることに繋がる。また、社員が裁量権を持てるようになるため、社員のモチベーションやパフォーマンスの向上が望めるだろう。
■注意点
組織内で社員が自由に動けるようになると、組織の統一性がなくなるケースが考えられる。
また、必ずしも社員全員がエンパワメントの組織作りに向いているわけではないことも意識しておきたい。指示によって動く方がパフォーマンス向上に繋がる人もいるため、能力の見極めやサポート体制が必要だ。
エンパワメントに取り組むメリットは多くあるものの、効果を最大化させるためには、適切なコミュニケーションや教育、組織文化の整備が必要となる。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部