裁判所のジャッジ
会社の勝ちです。裁判所は「2847万円返せ」と命じました。
――裁判所さん、会社が勝ったポイントは?
裁判所
「この留学は、会社の指示命令に基づく業務じゃないからです」
――ん?Xさん、反論ですか?
Xさん
「はい。今回の留学は会社の事業のために行なわれたものです(アフリカでの事業の最前線に私を配置するという目的)。なので留学費用は会社が負担すべきものです」
しかし裁判所は、
裁判所
「いや、今回の留学は業務じゃないですね」
〈理由〉
・留学の目的はアフリカで事業を行なうための人脈形成
・これ自体、Xさん個人に帰属する事実上の利益
・留学先の選定や履修科目について会社の具体的指示はなかった
・会社とXさんが交わした誓約書には「本留学は貴社業務として行なわれるものではなく、派遣者本人の希望と自由意思に基づき、私自身の能力の向上を目的としたものである」と書かれていた、など
――Xさん、不服そうですが。
Xさん
「この合意のせいで辞めにくくなっています(労働者の退職意思を拘束しています)」
(この時Xさんは合意前の借金額が明示されてない、などの理由を挙げてます)
――裁判所さん、どうですか?
裁判所
「業務【上】の行為についての貸付ならそうなるかもしれないんだけどね。今回の貸付は業務【外】だから。業務【外】のことについて会社が社員にお金を貸して、その時の条件として【5年以上在籍したら免除、5年以内に自己都合退職したら全額返してね】という条件をつけることは、退職の自由を不当に制約してるとはいえない」
というわけで、裁判所は会社の主張をほぼ認めて、Xさんに対して「2847万円返せ」と命じました。
ポイントは業務かどうか
同じようなトラブルは過去にもたくさんあります。留学のほかに研修のケースも。
「辞めるなら研修費用返せよ」ってヤツが多いですね。
裁判所が着目する大きなポイントは【これ、業務かな?】です。今回のように【業務じゃない】と認定されれば社員さんはほぼ負けます。
この留学費用は返さなくていいよ
逆に裁判所が「この留学費用は返さなくていいよ」と判断したケースもあります(富士重工業事件:東京地裁 H10.3.17)
こんな事件です。
会社
「チミ、帰国して5年以内に辞めたよね」
「海外研修の費用を払ってね、338万円」
「ウチの規則ではそうなってるよね」
裁判所
「払う必要なし」
「そんな規則は無効だ」
「だって会社の業務命令で留学してんじゃん」
で、社員が勝訴しました。裁判所が【コレは業務だよね。会社のために行ってるよね】と認定すれば、社員は勝ちます。返さなくてOKです。以下の条文があるからです。
労働基準法 16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
業務で行ってるのに「辞めたらカネ返せ」と突きつけると、社員は辞めにくくなるからです。社員を違法にしばっているので無効になるんです。
▼ 相談するところ
もし会社から「辞めるなら研修費用ぜ~んぶ返してね」とオラつかれている方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。法律コンテンツを作ることが専門の弁護士。
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