月曜日に仕事を始めることが憂鬱すぎて日曜日からすでに嫌な気分になる現象、その名も「サザエさん症候群」と呼ばれる言葉は日本でよく知られている。アメリカでも、「sunday scaries」というフレーズで同じ心理状況が形容されるが、その不安や絶望感を軽減するためにアメリカの若者たちの間で徐々に定着しつつあるのが、「Bare Minimum Monday(必要最低限の月曜日)」という新しい仕事に対する考え方だ。
このフレーズはクリエイターが持続可能な働き方をするためのTikTokコンテンツを投稿しているMarisa Jo氏が作ったといわれている。現在では彼女(ユーザーネーム@itsmarisajo)は15万人のフォロワー数を超え、「Bare Minimum Monday」というフレーズをつけて投稿された動画はおよそ500万個もある。概ねの趣旨としては、月曜日には自分にかけるストレスをできるだけ抑えるために「必要最低限の仕事だけやる」と決めること。余裕があれば追加でほかの仕事もこなしてもいいが、月曜の朝からやらなくてはならないことのリストが長く、ミーティングもぎっしりで……という状況によって週の始めから燃え尽きてしまうことを避けることが主な目的だ。Jo氏が提案するのは、例えば月曜日の朝の2時間はスマートフォンや仕事自体から距離を置き、運動をしたり週末に片づけられなかった家事をこなしたり、自分の時間を作ってゆっくりしてから徐々に仕事モードへと向かい、最も緊急な仕事を優先的にさばいたら残りは火曜日以降に処理する、と自分で決める働き方だ。月曜日からエンジン全開でタスクに追われるのではなく、心身ともにややリラックスした状態で1週間を始めることで、火曜日以降の時間は集中して仕事を処理できて、より生産性が上がるというメリットを提唱する。
もちろん、この価値観には反発も伴う。保守メディアからは「若者がこんな新しいフレーズを使って怠けようとしている」といったような記事が出され、「ひとりが怠けたら社会が機能しなくなる」といったような意見も上の世代からは多く見受けられる。しかし、若者たちからしたら自分のメンタルヘルスや身体的健康を害してまで必要以上に働いたところで、リターンもそれほどないし長期的に見たら持続可能でも生産的でもないと感じられる、という世代間の価値観の差も顕著に表われている。同時に、誰もがこのような働き方が最適であるわけではない。例えば月曜日にゆっくりしてしまったら火曜日以降に仕事を後回しにしてしまったり、優先順位をつけることが苦手で緊急ではない楽な仕事から着手してしまったり、そもそも柔軟な働き方が職場で許されないというような人もいるので、もちろん導入するかしないかは人それぞれだ。
仕事を始めることが楽しみで仕方がなく、週末も満喫できて月曜日にはリフレッシュできている、と誰もが感じられるような社会であればこんなフレーズも話題にはならない。が、実際にはこれだけ多くの人が「生産性」や「タスク管理」をストレスに感じている、ということは現状に問題があることを浮き彫りにしている。週末を永遠に引き延ばすことは無理でも、自分のペースでタスクの優先順位を考えたり、自分に対する「達成感」のハードルを下げたりすることはできる。そして何よりも、「必要最低限」というのは「怠けている」わけではなく、「最低限のことは達成できている」ことを意味する。終わらせられなかった仕事を考えて自己嫌悪に陥るよりも、終わらせられたことを受け入れることが自己肯定感を維持することへとつながるのではないだろうか。
文/竹田ダニエル
●竹田ダニエル|1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。