22年度から23年度にかけてで、採用決定時に個人に対して提示される年収「決定年収」の上昇幅がもっとも大きい職種はいったい何か?
パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」はこのほど、「2023年度 職種版 決定年収レポート」を発表した。
本レポートは、2019年4月-2024年3月の期間に「doda」のエージェントサービスを利用して転職した個人のデータをもとに、2019年度から2023年度の5年間で最も決定年収が上がった職種の解説に加え、14職種別に2023年度と2022年度を比較し、決定年収の上昇幅をランキング形式でまとめたものだ。
なお決定年収とは、転職者を受け入れる企業が、採用決定時に個人に対して提示する年収のことを指し、本レポートにおける決定年収額は全て平均値となっている。
決定年収は増加傾向、過去5年間で32万円アップ。最も上がった職種は「金融系専門職」で+54万円
「doda」における2019年度以降の決定年収の推移を踏まえ、過去5年間で最も上がった「金融系専門職種」について解説する。
年度毎に決定年収を分析したところ、年々増加傾向にあり(【グラフ1】参照)、過去5年間で32万円アップした。2020年度は、新型コロナが流行し求人が減る中、事業継続に必要不可欠な経験者採用に重きが置かれたため、決定年収は微増したと考えられる。2021年度は景気の先行き不安から、業態変革や新規事業に乗り出す企業、DXを一層推し進める企業が急増。専門性やスキルを有する人材の獲得競争がさらに激化し、転職時の提示年収を引き上げる企業が多く見られた。
2022年以降は景気回復の兆しが見え始め、2023年春闘では物価高や労働力不足感の強まりなどから、賃上げ率は30年ぶりの高水準に。2023年5月には新型コロナが5類に移行し、経済活動の再開が本格化、採用を強化する企業が増えた。結果、転職時の提示年収を引き上げる動きが顕著になっている。
職種別に過去5年間の決定年収の上がり幅を見たところ、最も増加したのは+54万円の「金融系専門職」でした。背景には、大手金融系企業が採用ターゲットを新卒から中途にシフトさせ、経験者採用の比率を上げていることが挙げられる。これには主に2つの要因があると考えられる。
1つ目は、「事業強化」だ。昨今、従来の金融サービスだけでは顧客のニーズを満たすことが難しくなってきている。そこで金融系企業は、デジタル技術や富裕層向け資産運用、プロジェクトファイナンスをはじめとした専門性を有する即戦力人材を採用し、事業強化を試みている。
2つ目は、2023年から有価証券報告書を発行する企業を対象に義務化された、「人的資本の情報開示」。これにより、新卒採用に重きを置いていた大手企業でも、多様な人材を積極的に受け入れるべく、中途を含むダイバーシティ採用に注力している。大手金融系企業もこの例に漏れず、近年、経験者採用を積極的に行っている。
14職種別決定年収上昇幅ランキング【2023年度・2022年度比較】
転職後に転職成功者が就いた職種における、2022年度と2023年度の決定年収額を算出し、14職種別に上昇幅をランキング化(【表1】参照)。上位3位の「技術職(組み込みソフトウェア)」、「営業職」、「技術職(化学・素材・化粧品・トイレタリー)」について解説する。
1位は、IoTやAIの普及により、幅広い業界でニーズが高まっている「技術職(組み込みソフトウェア)」
近年、「技術職(組み込みソフトウェア)」、すなわち「組み込みエンジニア」の採用ニーズが大幅に高まっている状況にあり、以下5つが主な要因として考えられる。
まずは、「IoTの拡大」だ。昨今、スマートデバイスやホームオートメーション、ウェアラブルデバイスのニーズが急増。こうしたIoT機器には、組み込みシステムの開発が必要不可欠だ。
2つ目には、「自動車産業の進化」が挙げられる。現在、自動運転のシステム開発が進んでおり、電気自動車やハイブリッド車、自動ブレーキ搭載車の生産を拡大していく動きも顕著だ。自動車産業の技術革新が進むにつれ、組み込みエンジニアの専門知識が一層求められるようになってきている。
3つ目は、「スマートファクトリーと産業自動化」。製造業では、生産効率向上を目指した産業用ロボットや自動化技術の導入が進んでおり、組み込みエンジニアのニーズが高まっている。4つ目は「医療技術の進歩」で、遠隔診療や手術支援ロボットなど、高度化する医療機器にも組み込みシステムが広く使われている。
そして最後に、「エネルギー効率と環境への配慮」だ。ソーラーパネル等のエネルギー効率が良く、環境に優しいソリューション開発にも組み込みシステムが活用されている。
多岐にわたってニーズがある一方、組み込みエンジニアは安全性やリアルタイム性が求められる傾向が強く、かつ開発における制約が比較的多いため、特に人材が不足している。さらに、本職種の採用ニーズが高まっている要因からも分かるように、組み込みエンジニアはさまざまな業界から求められているため、人材獲得競争が激化している。こうしたことを背景に、組み込みエンジニアの決定年収は増加傾向にあると推測される。