出版事業は1割の増収を見込んでいるが…
KADOKAWAは巣ごもり特需が発生した2021年3月期に、主力の出版事業の売上高が前期比10.5%増の1295億円と大きく膨らみました。しかし、それ以降は1桁台の成長ペースに留まっています。
そのような中で、2025年3月期は9.5%の増収を予想しました。1割近い増収を見込んでいるのです。新規IPの増加で国内の書籍は市場が縮小する中でも、売上高は横ばいを堅持。成長期待の高い海外で増収を狙うという作戦です。
ところが、今回のサイバー攻撃により、書店の発注サービスである法人発注Web窓口のサービスが停止しました。
6月のタイミングで販売を予定していたライトノベルなどの書籍は、少なからず影響を受けるでしょう。KADOKAWAは年間の出版数が5000タイトルと膨大。公式サイトが表示できないことから、プロモーションもかけづらいはず。
出版事業は売上高全体の6割を占めており、この事業の停滞は計画に大きく響きます。第1四半期(2024年4-6月)の出版事業の売上高は特に注目でしょう。
550円から790円に値上げしたタイミングだった
サイバー攻撃の影響を最も強く受けているのがニコニコ動画。サービスが停止してしまったため、Webサービス事業の業績に直結します。
2024年3月期のWebサービス事業の売上高は、前期比3.0%減の213億円でした。ニコニコ動画関連は4.9%の減収。プレミアム会員数が減少し、広告サービスも縮小を余儀なくされています。
しかし、2025年3月期のWebサービス事業の売上高は、前期比7.0%増の229億円と予想していました。
※決算説明資料より筆者作成
これまで、Webサービス事業の売上高は増減を繰り返してきましたが、2025年5月期は頭一つ飛び抜ける予定だったのです。
その要因となっていたのが、2024年3月1日に導入したプレミアム会員料金の値上げ。550円から790円へと43.6%の価格改定を実施しました。
ニコニコ動画は会員離れが加速していました。この値上げは苦肉の策だったように見えます。しかし、価格改定によって本質的なファンを残すことにもなります。ドワンゴは「ニコニコ超会議」というリアルイベントの磨き込みに力を入れてきました。ファンが残ってクリエイターのコンテンツ力が高まれば、影響力が広がって会員数が増加し、収益性の向上にも期待ができます。
しかし、値上げから3か月後にサイバー攻撃を受け、サービスの停止に追い込まれてしまったのです。
月間10億円の課金売上があるニコニコ動画
ニコニコ動画のプレミアム会員数は125万人(2023年12月末時点)。月額790円なので、1ヶ月で10億円近い課金売上がある計算です。ニコニコ動画はプレミアム会員やクリエイター奨励金の分配などについて、6月と7月を対象に補償を行うと発表しています。
ドワンゴほどの規模であれば、サイバー攻撃の保険に加入していると考えられ、ある程度の損失補填はできるものと考えられます。しかし、消失した売上がすべて補填されるかどうかは不明です。
サービス停止期間中に、会員やクリエイターが別のプラットフォームへと移行してしまえば、収益基盤が失われてしまいます。
ニコニコ動画の値上げをした直後ということもあり、今回のサイバー攻撃は最悪のタイミングで行なわれたものでした。
早期の復旧が望まれます。
取材・文/不破聡