古参ファンを唸らせるために悩んだ「どこを変えるか、変えないか」
実際に開発がスタートしてからは、新しい開発環境とチームメンバーへの指示出しが骨折りだったと和田さんは話す。
「今回の『ペルソナ 3 リロード』で、開発環境を一新したんです。それまでは自社エンジンでゲーム開発をしていたんですが、今回からUnreal Engineという開発エンジンに変えました。それによって、勉強をしなければいけないことがたくさんあり苦労しましたね。
あとは、一気に多くのスタッフが入ってきたため、誰に何をしてもらうのか、指示を出していく部分にも労力がかかりました。現場の思いも尊重しながら、時間とコストを管理していかなければならないため、どう折り合いをつけていくかも大変でしたね。ただ、現場のスタッフが納得しないと良いものは生まれない。だからこそ問題や不安要素を丁寧に説明しながら、一緒に考えるようにしました」
リメイク作品を作るうえでは、「どこを変えるか、変えないか」が一番の議論になったという。
「『ストーリーは変えない』というのは、僕から前提として出していましたが、細かい部分でどこを変えてどこを変えないのかは議論しましたね。小さなエピソードを入れるのか、バトルのシステムをどうするのか。
あとは、当時と比べてセリフの表現は今の感覚に合っているのかという点も検討した部分です。3は派生作品もたくさん出ているので、そこで描かれているその後の話に繋がるようなエピソードや、過去ナンバリングのキャラクターの小ネタをさりげなく織り交ぜています。キャラクターに声を吹き込む作業については、当時よりも声優さんのタイトルの理解度が進んでいるので、序盤の演技と後半の演技の移り変わりなど、神業的にうまく演じていただけました。そういったところにも注目してもらいたいですね」
和田さんが今作のターゲットに置いたのは、古くからペルソナシリーズを愛してくれているファンたち。というのも、ファンに納得してもらえる作品なら、新規ユーザーも増えてくれるはずという考えがあったという。
「古参ファンを唸らせることができれば、新規ユーザーにも評価されると思っていました。新規の拡大や『ペルソナ 5』からのファンの定着もテーマにはしていますが、やはり制作をするうえでのターゲットは、古参ファンだったと思いますね。ペルソナは良くも悪くもよく知っている方が多いので、『わかってないヤツが作っているな』と思われたくなくて。だから過去作をリスペクトして、変える・変えないのポイントも、ちゃんとツボを押さえることが大事だったのかなと思います。『そこはちゃんとわかっているよ』と」
アトラスが考える名作を後世に残すための戦略とは?
こうして発売に至った『ペルソナ 3 リロード』は、前述の通り発売後1週間で全世界セールス100万本を記録した。ユーザーからは、たくさんの反響が寄せられているという。
「発売後には、『アトラスありがとう』『こういうリメイクでいいんだよ』など、いろいろな感想をいただきました。クリア後にXなどに投稿されている方のコメントを見て、目頭が熱くなりましたね。エンディングがとても丁寧な印象になっているので、それがこういった声に繋がっているのかなと思います。あと、『アトラスさんありがとう』という時に、『ATLUS』のスペルを『ATLAS』と間違って書いている人を見ると、逆に『新たにファンになってくれた方かな』と思ってうれしくなります(笑)」
ゲームをプレイできるハードを限定しなかったこともヒットの要因のひとつだが、それ以上の意味があると和田さんは話す。
「ゲーム業界では最近、PCユーザーが拡大しています。PCで遊べる状態にしておけば、ここから先ハードに依存しないで、どこからでも新規の方が遊べる状態になるのはとても大きいことです。
今回『ペルソナ 3』をリメイクした理由のひとつとしては、ビジネス的な見地とは全く違ったところで、『この作品を後世に残しておきたい』という思いがありました。作品文化的な視点からも、このプラットフォームで今リメイクを出したかったんです」
最後に、和田さんは今後のゲーム開発の展望についてこう話してくれた。
「アトラスは、ゲーマーの方ならそれなりに知っているけど、まだまだマイナーでマニアックなメーカーです。シリーズの認知を拡大させて、メジャー化させていくことを目指していますが、シリーズの規模やタイトルの認知度が大きくなっていくと、自分たちがウリとしている『血が通ったゲーム』を作ることがだんだんと難しくなってしまうとも考えています。
難しいし時間がかかるとは思いますが、古くからのユーザーさんに評価されているRPG職人的な僕らの良い部分、しっかりとこだわりのあるゲームを作るメーカーであることは大前提として、自分たちの強みをしっかりと開発現場に継承しつつ、シリーズを拡大していきたいですね」
取材/DIME編集部 文/久我裕紀