昨年5月に発売され、大ヒットとなった三菱自動車の『デリカミニ』。アウトドアから日常使いまで幅広く対応するデザイン性と走破性から人気を集める、軽スーパーハイトワゴンだ。
なぜデリカミニは、ここまで支持されたのか。今回は、三菱自動車工業株式会社商品戦略本部 チーフ・プロダクト・スペシャリスト 藤井康輔さんにデリカミニ誕生の裏側についてお話を聞いた。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
人気の理由はアウトドアシーンから街中まで、おしゃれに乗れること
はじめに、藤井さんはデリカミニの特徴について次のように話す。
「デリカミニは、三菱自動車の唯一無二のオフロードミニバン『デリカD:5』の持つコンセプトを、軽のスーパーハイトワゴンで実現しました。タフでギア感のあるデザイン、広くて快適な室内空間、運転のしやすさや高い走行性能を兼ね備えています」
車のカラーには、アウトドアファッション市場のトレンドを採用。シックな色合いのネイチャーカラーの人気を受け、街中からアウトドアまで幅広く馴染む色味、アッシュグリーンを新たに開発したという。
アウトドアブームの流れを受けて誕生したデリカミニ
デリカミニの開発背景には、昨今のアウトドアブームがあったという。
「前モデルのeKクロススペースも、アウトドアを好む方をターゲットにした車でした。ただ、発売してみると、特に若い方や女性からあまり良いイメージを持っていただけず、販売台数が伸びませんでした。今回のデリカミニは、eKクロススペースを新たにモデルチェンジし、よりアウトドアシーンに合う車にしたんです」
スーパーハイトワゴンの購入層は、30~40代のヤングファミリー層。三菱自動車は、若いユーザーを獲得できないという課題を抱えていた。今回は特に、ヤングファミリー層の購入決定権を握る女性からの好感度にこだわって開発が進められたという。
三菱自動車を象徴する「デリカシリーズ」
デリカシリーズの新製品を開発することになった経緯を、藤井さんは次のように語る。
「デリカシリーズの一番大事にしているコンセプトは、大切な家族や仲間と過ごす楽しい時間の共有です。今回、より三菱自動車らしい車を作っていこうという中で、私たちが大切にしてきたデリカのコンセプトとかなり近いという話になり、デリカシリーズとして訴求していくことにしました。当社の中でも、デリカシリーズは知名度が高いため、そのメリットを活用したい想いもありました」
反省を生かしながらスタートしたデリカミニの開発
デリカミニの開発当初の状況について、藤井さんは次のように振り返る。
「私たちは、新車販売後に必ず調査を行ないます。デリカミニの開発時は『eKクロススペース販売後の調査で見えた課題に対し、どのようなアクションを取るか』からスタートしました。eKクロススペースのモデルチェンジをするためには、大きな投資が必要でした。そのため、『本当に台数を伸ばせるのか』という議論が社内で慎重に行なわれましたね」
前モデルeKクロススペースとの違いについて、藤井さんは次のように話す。
「一番わかりやすい違いは、デザインです。eKクロススペースは、メッキ部分が多いギラギラした顔つきで、アウトドアというよりカスタム系の車だと捉えられていました。デザインは女性から受け入れられなかった要因のひとつだったので、今回はよりアウトドアらしく、そして女性を中心とした好感度を上げるべく、愛着感のある表情にしました」
車内スペースもeKクロススペースからアップデートされていると藤井さんは続ける。
「eKクロススペース開発時から、日常の使い勝手の良さを重視しています。デリカミニの場合、広い室内空間を確保している点が特徴です。後席は、シートアレンジを豊富にし、ロングスライドさせてお子さんを乗せたり、たくさんの荷物を乗せたりとさまざまな用途を想定して設計しました。室内の高さも1m以上はあるので、一般的な大きさの自転車なども積めます」
決まったスペースに合わせる新型車の開発に苦戦
eKクロススペースを新モデルとして生まれ変わらせる今回の開発の途中には、さまざまな課題があったと藤井さんは振り返る。
「まっさらな状態から新型車を作るときは、軽自動車としての制約はあるものの、比較的自由なチャレンジができます。今回は、eKクロススペースがベースになっているため、タイヤサイズ、車高、ヒップポイント(シートの座る位置)などの大枠が決まっていました。そうした大枠に当てはまるように、ボディーを仕上げるのが大変でしたね。例えば、タイヤサイズはeKクロススペースよりひと回り大きなものを採用しているので、車高が変わります。車高が変われば、センサー類、安全装備、レーダー、車の操縦安定性などを対応させる必要があるんです。そうした細かいアジャストに苦労しました」
女性からの支持を得るためにデザインについても、頭を悩ませたという。
「軽自動車の寸法が決まっていて変更の余地が少ない中、いかにデザインを変えるかが難しい部分でした。私たち企画担当が『デリカらしい顔で、さらに愛着感を持たせたい』などのさまざま要望を出したので、デザイナー陣は相当苦労したと思います。結果、デザイナー陣には本当に良い仕事をしていただき、満足のいくデザインに仕上がりました」