「私にしかできない」と思わせることで仕事を掴む流儀
苦境の中、信念を貫くフュリオサ。見ていて痛々しいほどの姿が目に焼きつき、そのまっすぐな姿にはある種の清涼感すら感じる。キャラクターと自身の共通点について、ファイルーズあいさんはこんなふうに語る。
「復讐に一直線なフュリオサは、生きる全てが目的を果たすためのステップ。集中している時、目の前のことしか考えられないあたりは自分との共通点ですね。私も、自分が『こうやりたいと決めたらやるんだ』って貫いてしまうので、ある種の強さと頑固さはちょっと似ているかもしれません。目的意識が強くて、達成のためなら自分を追い込める。そこに共感します。それくらいしないと達成できない目的にこそ、私は価値があると思っているので」
デビュー以来、次々と話題作の重要な役を射止めているファイルーズあいさん。思春期をエジプトのカイロで過ごし、帰国後中学になじめなかった頃、『ジョジョの奇妙な冒険』に出会う。この作品に出演したいと強く思い、声優を目指したことは広く知られている。
「もともと『助けたい!』と感じるキャラクターがいて、その子を助けるために私の人生を賭けてもいいと思ったんです。そこで、いろいろ準備をしました」
そして彼女は、想いを馳せていたキャラクターが登場する作品『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』に、主人公役で出演することとなる。夢のようなシンデレラストーリーの裏側には、並々ならぬ信念と泥臭い努力があった。
また、仕事を掴みとっていく背景には、飛び抜けたセルフプロデュース力も関係している。
この日の彼女は、フュリオサをイメージして黒をベースカラーにしたファッションに、力強いヘアメイクがとても似合っていた。指先には蛇が巻きつく指輪をはめ込み、ディテールの追求も譲らない。大好きなファッションは、仕事の大きな助けになっている。
「私にとって、ファッションは武装、鎧ですね。オーディションの時も、できるだけキャラクターの雰囲気に合わせてイメージの服装を自分でスタイリングして挑みます。『私以外、この役をイメージできない』ってくらいに見た目から入るんです。もちろんお芝居も準備して、しっかりやります。残念ながら落ちてしまっても、私ファイルーズあいという人間を覚えておいてくださいという気概です」
強烈な個性と、役に徹する仕事力
声優は裏方、と長年言われてきたが今はその限りではない。それぞれが個性を生かして活躍の幅を広げ、声優そのものの人気が高まっているのは周知のこと。ファイルーズあいさんはそんな世代のひとりだ。
撮影では、自らポーズを次々提案し、いくつもの表情を見せてくれた。サービス精神は留まることを知らず、カメラマンに編集者、映画スタッフに至るまで、「かっこいい!」「素敵!」と賞賛の声が止むことはなく、短いながら濃密なセッションが行なわれていた。
こだわりが伝わるヘアメイクやファッション、SNSや取材で伝わってくる、強烈な個性と突出したセルフプロデュース力。一方、「ファイルーズあいの色よりも、演者の芝居が伝わるように」と真摯に役に徹し、技術職として取り組むその姿勢。
『マッドマックス:フュリオサ』でフュリオサが操るバイクのように、両輪のバランスを両立させながら〝爆音〟で進む彼女は、これからもエンターテインメントの世界に旋風を巻き起こしてくれるに違いない。
ファイルーズあいプロフィール
1993年、東京都生まれ。2019年にアニメ『ダンベル何キロ持てる?』(紗倉ひびき役)で初の主演を務め、声優デビュー。その後、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(えりぴよ役)、『トロピカル~ジュ!プリキュア』(夏海まなつ/キュアサマー役)、『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』(空条徐倫役)、『チェンソーマン』(パワー役)など人気作品に多数出演。小学生の時にエジプトへ留学していた経験を持つ。
映画『マッドマックス:フュリオサ』
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場した女性戦士フュリオサの過去が今、明かされる――。世界崩壊から45年後。若きフュリオサは、故郷である〝緑の地〟からさらわれ、ディメンタス将軍率いるバイカー軍団の手に落ちる。復讐を誓うフュリオサは数々の試練を乗り越え、すべてを奪ったこのMADな世界<マッドワールド>をぶち壊すため、ついに覚醒をして……!?
『マッドマックス:フュリオサ』大ヒット上映中!日本語吹替版同時上映 IMAX(R)/4D/Dolby Cinema(R)/SCREENX
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取材・文/宇野なおみ 撮影:大嶋千尋