大躍進を遂げていたセガサミーホールディングスの業績に異変が訪れています。
今期(2025年3月期)は減収、営業減益を予想しているのです。セガは人気IPの「ペルソナ」と「龍が如く」、「ソニック」の新作をヒットさせて大幅な増収を成し遂げていました。しかし、業績を下支えするモバイルゲームが減速しています。
中期経営計画で掲げていた、既存IPの強化、収益基盤の構築という重点戦略に躓いた印象を受けます。
1年たたずサ終した「404 GAME RE:SET -エラーゲームリセット-」
大胆な構造改革を進めた後のV字回復も長く続かず…
セガの2022年3月期から2024年3月期までの売上成長率は平均で19.0%。3期連続で2割の増収を続けていたことになります。2021年3月期の営業利益率はわずか2.3%でしたが、2022年3月期は10.0%まで回復。翌期は12%台まで高まりました。
※決算短信より筆者作成
業績が停滞したセガは、2020年に希望退職者を募集。このときに700人程度の人員削減を実施しています。構造改革委員会を設置して業績不振のゲームセンター事業を売却するなど、資産の整理も進めていました。2022年からは正にV字回復とも言えるもので、セガの復活を予感させるものでした。
しかし、2025年3月期の売上高は前期比4.9%減の4450億円、営業利益は同20.8%減の450億円を予想しています。営業利益率は12.1%から10.1%まで下がる見込みです。
セガは欧州地域の構造改革を進めることを決め、子会社でゲーム開発を行うRelicの譲渡や海外の拠点で働く240名の人員削減を行います。2023年9月には欧州のスタジオの人員250名を削減したばかりでした。
2024年5月には宮崎市のリゾート施設「シーガイア」を運営するフェニックスリゾートをアメリカの投資ファンド・フォートレスに売却しました。
日本の大企業は構造改革の意志決定が遅くなりがち。しかし、セガは迅速に固定費の削減や資産の売却を進めており、立て直しに対する経営手腕は優れていると言えるでしょう。
ただし、業績にブレーキがかかるのも早すぎた印象が否めません。
「エラーゲームリセット」はリリースから1年たたずに終了
セガは売上全体の7割をエンタテインメントコンテンツ事業が占めています。この事業には映画収入や玩具販売も含まれていますが、事業全体の7割はゲームによる収入です。
コンシューマ分野(ゲーム分野)の売上高は大きく2つに分かれています。パッケージゲームなどを販売するフルゲームと、モバイルゲームのF2Pです。
2024年3月期のフルゲームの売上高は、前期比20.2%増の880億円でした。増収に貢献したのが、2024年1月に発売した「龍が如く8」と同年2月の「ペルソナ3 リロード」。2タイトルともに発売から1週間で100万本を突破しています。
このシリーズはセガの鉄板タイトルとも言えるもので、国内外で人気があります。
セガは2024年3月期の期首にコンシューマ分野の売上高を2050億円としていました。実際の着地はそれを8.6%上回る2226億円。予想を超えてヒットしている様子がわかります。
ただし、このフルゲームには弱点があります。業績が安定しないのです。
※決算説明資料より
上のグラフを見ると、2023年3月期3Qに売上高が大きく押し上げられています。これは2022年11月に発売した「ソニックフロンティア」の影響。販売本数は2023年3月末時点で320万本という大ヒットタイトルとなりました。
しかし、ヒット作の創出は再現性が低く、業績の浮き沈みが激しくなります。いくらヒットIPとはいえ、短期間で新作を出すことはユーザーの乖離を招くためにできません。
そこで、モバイルゲームによる盤石な収益基盤を構築する必要があります。
しかし、セガの2024年3月期のモバイルゲームの売上高は前期比13.2%減の539億円でした。1割もの減収に見舞われているのです。
2023年4月に「404 GAME RE:SET -エラーゲームリセット-」をリリースしました。「バーチャファイター」や「ディグダグ」、「ゼビウス」などセガの名作に登場するキャラクターを美少女化。「セガ」によって歪められた世界を取り戻すため、戦いに身を投じるという野心的な内容でした。
しかし、このゲームは2024年1月5日に早くもサービスを終了しています。
セガは2023年3月期、2024年3月期において、モバイルゲームのヒット作を生み出すことができなかったのです。
ファンを置き去りで大苦戦した「サクラ革命」
セガは2022年3月期から2024年3月期までの中期計画において、エンタテインメントコンテンツ事業の既存IPによる収益基盤の増強を掲げていました。既存IPのプロダクトライフサイクルの長期化を重点戦略の一つとしていたのです。
セガは豊富なIPを保有していることで知られています。現在でも人気の龍が如く、ソニック、ペルソナを除いても、ぷよぷよ、サクラ大戦、バーチャファイターがあります。これらを活用しきることができていません。
セガはサクラ大戦で手痛い失敗をした過去があります。「サクラ革命 ~華咲く乙女たち~」です。2020年12月にリリースし、わずか半年後の2021年6月にサービスを終了しました。時代やキャラクター設定がファンの期待を裏切ったと言われています。
このシリーズは根強いファンが多く、ヒットのポテンシャルは十分持っています。
このころから、過去のIPを活用した大作に対して後ろ向きになった印象を受けます。バーチャファイターの26年ぶりの復活はアーケード版、ぷよぷよはApple Arcadeでの配信でした。
M&Aで自社開発に一区切りをつけた?
そして、自社での開発に一区切りをつけたように、2023年4月にモバイルゲーム会社Rovio Entertainment OyjのTOBを決議。この買収は成立しており、1036億円を投じています。
成長投資であるM&A自体は否定する内容ではないものの、重点戦略として掲げていた既存IPによる収益基盤の拡大とは大きく外れています。
仮にM&Aによって成長路線へと転じたとすれば、眠っているIPが十分に活用されずに時が過ぎることにもなるでしょう。
セガは次なる中期経営計画において、ヒットIPのトランスメディア化を掲げています。これはソニックに代表されるもので、フルゲーム、モバイルゲーム、映画、動画配信など強力なIPを横展開するというもの。
今後、ヒットIPへさらなる依存度を高めることになりそうです。
取材・文/不破聡