入社半年の新入社員が考案したキャッチコピー「語れる健康経営」
会社は、従業員が1日の大半を過ごす場所。働く人々にとって、心地よく、活動的に、そして何より健康的に過ごせる職場かどうかは、 “ウェルビーイング”な生き方に影響する。
ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社(以下、ポッカサッポロ)では、2017年にサッポログループが掲げた『サッポログループ健幸創造宣言』を皮切りに、社員のウェルビーイング施策を行っている。特にポッカサッポロの“顔”でもある、「レモン」を取り入れた施策が特徴だ。
例えば、健康に対する取り組みを社員間で語り合う企画として、『ヒラメキ食卓リレー』を実施。社員一人ひとりが自身や家族の“心と体の健康ストーリー”と、ポッカサッポロ商品の活用方法やレシピを考え、社内報でリレー形式に掲載していく企画だ。
また社員向けに、レモンを使った『オンラインレモン料理教室』を実施。レモンのさまざまな健康価値で社員の健康を応援するため、実際にレモンを活用したレモンレシピなどを社内向けに展開する施策を実施した。
さらに、レモンに含まれるクエン酸はカルシウムをより溶けやすい形に変えるチカラ(キレート作用)があるため、レモンのクエン酸がもたらす「骨の健康をサポートするチカラ」について、理解を促進するきっかけ作りも行っている。21 年からは、社員の健康診断受診時に骨粗鬆症財団協力のもと骨量測定も実施している。
今回はポッカサッポロの人事総務部担当部長・河井三郎さんと、人事総務部・渡邊舞さんに、取り組みについて聞いた。
サッポログループでは、17年から「社員の心身の健康は、従業員・その家族・会社の幸せ、そしてお客様の幸せを創造するもの」と考え、『サッポログループ健幸創造宣言』を掲げている。健康の“康”を“幸せ”の文字に置き換え、社員の健康増進に取り組み、健康な従業員が「酒・食・飲」の事業を通してサービスを提供することで、消費者であるお客様の心身を健康と幸せにする、という考えだ。健康増進に積極的に取り組むことで、「働く場」としての魅力も高める。
当初は、親会社であるサッポロホールディングスが旗を振っていたが、21年頃からはポッカサッポロ内で主体的な『健康経営』を考えるようになったという。その中心メンバーとなったのは、当時入社半年ほどで人事総務部に配属された、新入社員の渡邊さんだった。(以下、質疑応答)。
DIME WELLBEING(以下・D):『サッポログループ健幸創造宣言』を受けて、どのような形で、社員の“ウェルビーイング”施策を考えたのでしょうか。
河井さん(以下、河井):21年の秋に、わたくしが着任して、「せっかくなら、『ポッカサッポロとしての健康経営』を進めていければ」と思っていました。その時に、入社半年ほどの渡邊さんが、『語れる健康経営』というキャッチコピーを打ち出してくれました。ちょうど22年が、新しい経営計画を策定する年だったので、ポッカサッポロとしても、「我々としての健康経営を追求していきたい」と思っていました。当時の社長に『語れる健康経営』を報告したら「いいね!」と言っていただき、独自に施策を考えていくことになりました。
D:それがレモンを使った『ヒラメキ食卓リレー』や『オンラインレモン料理教室』ですね。
河井:22年から2年間、少しずつやっていきました。まずは「社員の健康のために」というところが、第一のスタート。我々の属するサッポログループ自体はビール事業を源流としていることもあり、もちろん適正飲酒など課題はありますが、食品飲料会社であるポッカサッポロ社の社員が「ビール会社よりも健康か」というと、実はそうでもない。まずは「従業員の健康」というところがスタートでした。
D:渡邊さんは、入社半年でなぜ『語れる健康経営』を思いついたのですか。
渡邊さん(以下、渡邊):健康に関する情報が、「“他人事”にならないようにしたい。“自分事”になるようにしたい」と思っていました。私は管理栄養士養成課程の大学で栄養について学んでいたのですが、実習で医療や保健所の現場を見学する中で、『人の人生』をトータルで考えてみた時に、「健康=やらなきゃいけないもの、楽しくないもの」になってしまっている人も多いと思いました。
どちらかというと食品飲料メーカーは、「健康に行きつくまでの生活を豊かにするお仕事」なので、健康という観点からも、楽しく健康に取り組める。「そういう食文化に関わりたい」と思って入社したところ、人事総務部に配属になり、『健康経営』を知りました。食品飲料メーカーだからこそ、「社員自身が健康を実感して、『自分のこと』として語れる状態になったらいいな」と思って、『語れる健康経営』という言葉を思いつきました。
ウェルビーイング施策で生まれた“人となり”の可視化やキッカケ作り
D:『ヒラメキ食卓リレー』を施策にした理由は。
渡邊:どうやったら健康が“自分事”になるか考えた中で、自社商品を絡めると仕事にも関連があり、優先順位も上がるのではないかと思いました。「自社商品の活用方法と健康ストーリー」を、リレー形式で発信していくことで、実感したことを語ることができますし、自社商品や健康への思いもセットで広げていけると思いました。
D:実際にやってみて、社内での反応はいかがでしたか。
渡邊さん:弊社のサステナビリティ推進リーダー(※)と一緒になって進め、工場やグループ会社も含めて、北海道から沖縄まで全拠点で実施しました。22年の7月から23年3月まで、少ない月で1件、多い月は3~4件です。
ヒラメキ食卓リレーを通して、社員さんの“人となり”も見えてきました。お子さんのお写真を載せてくださったり、学生時代の思い出を語ってくださったり。運動部だったベテラン社員さんによると、当時マネジャーさんがポッカレモン100を使った差し入れを用意してくださったそうなのですが、「学生の頃からポッカレモン100との距離が縮まりましたが、マネジャーとの距離は縮まりませんでした(笑)」とエピソードが書かれていて、思わず笑ってしまいました。
私自身も、入社したばかりで他の部署の社員の方に詳しくなかったのですが、ヒラメキ食卓リレーを通して少し社員の”顔”が垣間見えることができた気がします。またレシピは、部署で募集をかけてもらいました。部署によっては“全員応募”にして、マネジャーが先行してコンテスト形式にしたところもあったそうです。「集める過程での会話も生まれた」という声もいただいています。
D:ヒラメキ食卓リレーの他に、『オンラインレモン料理教室』も開催されています。
渡邊さん:弊社にはレモンに関する啓発を行う部署(ブランドマネジメント部 宣伝・販促グループ)があり、『オンラインレモン料理教室』はブランドマネジメント部 宣伝・販促グループと一緒にやっています。 “レモンについて語れる社員”がいるからこそ、レモンに関する啓発を行っていける。社内向けにも同じようなことができないかと思い、『健康経営』という観点からも一緒に取り組みました。料理教室を開催し、先生方から学んだレモン料理を、実際社員に自宅で挑戦してもらいました。
D:ウェルビーイング施策を続ける上で、取り組んでいることはありますか。
渡邊: サステナビリティ推進リーダーと一緒に、勉強会を開催しています。『健康経営』の状況や施策の他、皆さまにご協力をお願いしたい内容を話します。ただ単に「健康経営をしてほしい」とお願いするというよりは、『語れる健康経営』の概念を各部に持ち帰ってもらって、「各部でどういうところで健康価値を発信できるか」を、考えていただけるキッカケにしています。
勉強会では、全国にいるサステナビリティ推進リーダーを中心にグループを作って、「推進に向けて大変だったところ」などを情報交換していただきます。「こういうところが推進できない」という悩みに対し、推進リーダー同士で「こういうふうにしているよ」とアドバイスしています。
D:ウェルビーイング施策に取り組んで感じた反応や、課題などはありますか。
河井:健康の数値の変化はまだこれから見ていかないといけませんが、「キッカケ作り」というところでは、他の拠点同士、顔を合わせていないメンバーでも会話が生まれたと思います。各拠点での関連性が増え、前向きに健康の話し合いをしていただいているので、全国の活性化はできたと思います。
渡邊:「健康」というワードにすると、どうしても無関心層も出てくるので、そこをどうしていくかが難しいです。割り切りって「関心ゾーン」を増やしていくのか、無関心層としっかり向き合って特化した施策をやっていくのか。今はそこを熟考し始めているところです。
まずは“自分の幸せ・ウェルビーイングな状態”を知ることから
D:新たにやってみたいことはありますか。
渡邊:今ちょうど準備をしているのが、各拠点に「置きレモン」をすることです。弊社の商品である『ポッカレモン100』を各拠点に置き、サラダや飲み物に活用できるよう、環境整備を進めています。限定の施策だと、その期間だけになってしまうので、日常的に健康に取り組んで会話が生まれるような環境を作りたいと思いました。
河井:『ポッカレモン100』は家庭では使いますが、意外と会社では使う機会がないので、これがひとつのきっかけになれば。
D:こうしたアイデアはどのように思いつくのでしょうか。
渡邊:「次のステップにどういうことをしたいか」を考えています。理想像として、“社員や自分が健康と向き合って伝えられている姿”を描いて、それに向けて「今何に取り組むべきか」を考えています。健康経営に関しては、フリースペースで皆さんにも話を聞いたりして、そういった場所でも生まれてきます。
河井:渡邊さんの1つ下にも、健康経営に携わっている社員がいます。若いメンバーからも、新鮮なアイデアを引き出してもらえます。
D:ポッカサッポロさんの場合は「レモン」という分かりやすい、健康をイメージしやすい商品がありますが、他の企業がウェルビーイングで従業員の健康を考える時に、どのように取り組んでいけばいいでしょうか。
河井:ウェルビーイングを試行されている会社さんは、「自分のところだけでやればいい」ではなくて、社会的に「語れる」「発信していく」部分があると思います。わたくしたちも、「レモンの健康について語ってほしい」ということがあれば、我々がお邪魔させていただいて話すこともしています。他の会社さまとお互い知恵の出し合いをしていくことで、我々も社会的な貢献ができるので、そういったネットワークを使っていただけるといいのかな。
渡邊:ポッカサッポロでは、去年から新入社員研修でWHOによる健康の定義からヒントを得て「身体的・精神的・社会的に自分が満たされている瞬間はどんな時ですか」というのを、1人1人に考えてもらう時間を作っています。普段、「どんな瞬間が幸せか」を考える機会ってないですよね。
研修の中では、「山登りに行って、人とすれ違ってあいさつをした時に幸せを感じる」や、「仕事をやりきった時に満たされている」「忙しい! と思う時に満たされていると思う」といった、さまざまな意見が出ました。
幸せを感じる瞬間は人それぞれ違います。まずは「自分のウェルビーイング」がどういう状態かを知ることがウェルビーイングの第一歩になるのではないかと思います。
D:確かに。まずは自分のウェルビーイング状態を知らないと、何が幸せか分からなくなりますね。
渡邊:この研修は現在、新入社員だけに行っていますが、できればいろんな社員に問いかけたいなと思っています。「自分のウェルビーイング」を本人が自覚して、かなえられる会社にしたいです。まずは、「あなたのウェルビーイングは何か」を問いかけたいです。
河井:次の健康経営施策はそれだ(笑)!
さまざまな施策で健康経営を実践するポッカサッポロ。2回目では、若手が声をあげやすいポッカサッポロの働き方、労働環境について紹介していく。
(※)サステナビリティ推進リーダー:ポッカサッポロでは、サステナビリティ活動の全社推進にあたり、各部署に数名「サステナビリティ推進リーダー」を任命する社内体制をとっている。
取材・文/コティマム