睡眠の質は、仕事のパフォーマンスを大きく左右します。睡眠不足は集中力や判断力の低下につながり、ミスやトラブルを招くリスクを高めます。一方、十分な睡眠をとることで、創造性やモチベーションが向上し、生産性が高まるのです。
そこで今回は、質の高い睡眠を確保するための入眠前の準備について、私が長年にわたって実践し、多くの人々にも共有してきた知見を紹介します。
寝室には目覚まし時計を置かず体内時計に依存する
質の高い睡眠を実現するためには、まず寝室の環境を整えることが重要です。私は、寝室に目覚まし時計を置かない生活を実践しています。これは、自然な睡眠リズムを取り戻し、目覚める時刻を自身の体内時計に依存させるためです。特殊な場合を除き、目覚まし時計を使うことはほぼありません。
ある大手電機メーカーでは、社員の睡眠の質を高めるために、全社的な「ノー目覚まし時計チャレンジ」を実施しました。参加者の7割以上が、目覚まし時計なしでも自然に目覚められるようになり、仕事の効率や創造性が向上したそうです。
この実験結果は、サーカディアンリズム(概日リズム)の重要性を裏付けています。サーカディアンリズムとは、約24時間周期で変動する体内時計のリズムのこと。正常に作用すれば「睡眠-覚醒リズム」のほか、体温、ホルモン分泌などが自然と整います。目覚まし時計に頼らず、自然な体内リズムに従って睡眠と起床を習慣化することが、質の高い睡眠につながるのです。
入浴による体温調節が睡眠の質を左右する
私の経験からすると、睡眠の質を高めるためには、就寝前に体温を高めるのも効果的です。具体的には、熱いお風呂にゆっくりと浸かり、体の深部から温めることをおすすめします。入浴後、寝床につくタイミングにかけて体温が徐々に下がることで、自然と睡眠へと導かれるため、質の高い睡眠をとれるのです。
睡眠科学の研究でも、入浴による体温上昇と、その後のゆっくりとした体温低下が、深い睡眠を促進することが明らかになっています。体温リズムと睡眠の関係に着目したあるベンチャー企業では、最適な入浴タイミングを知らせるアプリを開発。社員の睡眠の質が向上し、業績アップにつながったそうです。
体温と睡眠の関係は、医学的にも裏付けられています。体温が下がると、睡眠を促進する神経伝達物質「メラトニン」の分泌が活発になります。また、レム睡眠(夢を見ている状態の睡眠)では、体温調節機能が低下するため、入眠前の適切な体温調節が重要だと考えられています。
スマホやPCなどの使用を就寝前には控えめに
睡眠の質を左右する重要な要素として、夜の活動があります。私は、就寝前の読書を習慣としていますが、これはスマホやPCといったデジタルデバイスの使用を控えて、メラトニンの分泌を妨げないためです。
スマホやPCのディスプレイから発せられるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、睡眠を妨げることが知られています。ある外資系IT企業では、就寝の2時間前からデジタルデバイスの使用を控えることを社員に推奨しました。その結果、質の高い睡眠がとれるようになり、昼間のパフォーマンスが大幅に向上したとのことです。このように、睡眠前の活動は、翌日の仕事の質にも大きく影響を及ぼすため、注意深く行なうことが重要です。
ブルーライトの睡眠への影響は、医学的にも証明されつつあります。ブルーライトには、網膜の光受容体を刺激し、体内時計をリセットさせてしまう働きがあります。そのため、夜遅くまでブルーライトを発する画面を見続けることで、本来なら分泌されるはずのメラトニンが抑制されて「睡眠-覚醒リズム」が乱れてしまうのです。
就寝3時間前には食事を済ませること
睡眠の質に影響を与えるもうひとつの要素は、食事です。就寝前の3時間は食事を避け、特に血糖値を急激に上げるような食品は控えましょう。これは、体内の血糖値の乱高下を防ぎ、質の高い睡眠を促進するためです。
睡眠と栄養の関係性に注目した大学の研究チームによると、就寝前の高カロリーな食事は体内リズムを乱し、睡眠の質を下げるという結果が出ています。この研究結果を社員食堂のメニュー開発に生かしている企業もあり、夜遅い時間帯は軽めのメニューを提供することで、社員の睡眠の質を向上させることにつなげているそうです。
医学的には、就寝前の食事が消化器系に負担をかけ、深い睡眠を妨げると考えられています。また、血糖値の急激な変動は、睡眠中の体内ホルモンのバランスを崩す可能性があります。インスリンやコルチゾールなどのホルモン分泌が乱れることで、睡眠の質が低下してしまうのです。
睡眠の質を高めるにはスリープテックの活用もおすすめ
睡眠は単なる休息ではなく、脳と体の機能を回復させる重要な時間です。睡眠中は、記憶の整理や固定化、ストレスホルモンの分解、免疫機能の強化など、様々な生理的プロセスが進行します。質の高い睡眠をとることは、心身の健康維持にもつながるのです。
近年の睡眠研究では、睡眠の質を高めるための様々なアプローチが提唱されています。例えば、睡眠の7つの要素(適量、規則正しさ、良質さ、タイミング、日中の眠気、入眠時間、途中覚醒)に着目し、総合的に睡眠の質を評価する「ピッツバーグ睡眠質問票」などがあります。
私はブレインスリープの睡眠トラッカーを寝衣に付けて、睡眠の質を確認しています。同デバイスに対応するアプリでは、睡眠のスコアを表示してくれるので、さらに質を高めようとするモチベーションが湧いてきます。
ここまで紹介してきた中から、自分に合う入眠前の準備を実践することで、仕事のパフォーマンスが高まり、充実した日々を過ごせるようになるはずです。
睡眠はビジネスパーソンにとって重要な武器ともいえます。ぜひ皆さんも、質の高い睡眠を確保するための準備を始めてみてください。毎日の小さな習慣の積み重ねが、大きな変化を生み出すでしょう。あなたの睡眠の質を高め、仕事の生産性を向上させる〝スリープ実験〟を、今夜からチャレンジしてみませんか。
文/越川 慎司
全員が専業禁止、週休3日の株式会社クロスリバーの代表取締役社長。800社超の働き方改革を支援している。仕事のタイパを上げるオンライン講座の実施は年間400件以上。自著29冊、最新刊『最速で結果を出す超タイパ仕事術』(小学館)が好評発売中。