人生において、すべてがうまくいくことはありません。思うように事が運ばず、不安や残念な気持ちになるのは、誰しも経験することです。新しいことにチャレンジした結果、うまくいかなくなることもよくあります。
そのような「うまくいかない」ことを避けるためにも、過去に成功したやり方などを続けるほうが、リスクは低いかもしれません。しかし、何ら改善を試みないことのリスクはそれよりも高くなります。だからこそ、何かに挑戦するのは素晴らしいことなのです。
今回は、そのことを念頭におき、チャレンジを続けるための考え方について紹介しましょう。
挫折=トラウマの体験はあなたにとって大切なギフト
挫折の最中にいる時は、なかなか前を向けないものです。その時は、周囲の励ましに助けられることでしょう。
組織コミュニケーションの第一人者であるポール・G・ストロツ博士は「逆境指数」という概念を提唱しました。彼は挫折を乗り越えた経験が、その後の成功をもたらすと言っています。また、臨床心理士のイーディス・シロ博士は、著書『トラウマがくれる意外なギフト』の中で「外傷後成長(Posttraumatic Growth)」を説明しています。トラウマを乗り越えた人たち(トラウマ・サバイバー)は、自分で気づかなかった強みを発見したり、人間関係に新たな価値を見出したりして、自己変革のきっかけにする傾向にあるというのです。こうした精神的な成長を授けるという意味で「ギフト」と称しています。
しかし、現実と向き合い、挫折をギフトとして受け入れ、冷静に振り返られるようになるには、時間も必要です。だからこそ、うまくいかなかった経験を経て、うまくいった瞬間に「あの時は挫折だった」「乗り越えられた」と感じられることは、幸福の証と言えるでしょう。
挫折は「記憶効用」を高めるよい経験だと考える
挫折について考えられることは、少なくとも一番つらかったどん底から這い上がってきている証拠と言えるでしょう。一歩前に進んだからこそ、過去を振り返ることができるのです。
幸福というのは相対的なものです。真冬の屋外で上半身裸になるのは耐え難い寒さでしょう。しかし、85度のサウナに入った直後なら、外の寒さが心地よく感じられるかもしれません。状況は変わっていないのに、感じ方は大きく変化するのです。
行動経済学者のダニエル・カーネマンは「経験効用」と「記憶効用」という概念を提唱しました。「経験効用」とは、ある経験をしている最中の幸福度のことです。一方の「記憶効用」とは、ある経験を振り返った時の幸福度のことを指します。
カーネマンによれば、私たちは「経験効用」よりも「記憶効用」を重視する傾向にあるのだとか。つまり、その時はつらくても、振り返った時に「良い経験だった」と感じられることが重要なのです。
苦難から這い上がろうとしている際の「経験効用」は低いかもしれません。しかし「記憶効用」は高くなる可能性があります。だからこそ、過去の挫折も、価値ある経験として捉えましょう。
挫折に対する受け止め方をポジティブにする
挫折を避けるためには、努力よりも準備が大切です。心やスキルの準備とともに選択肢を増やすことで、挫折を回避することもできます。ただし、私が強調したいのは「挫折を感じることを避けない」ということです。むしろ、挫折を感じることが成長するには重要だと考えています。私自身、定期的に挫折を経験してきました。
心理学者のアルバート・エリスは「ABC理論」というものを提唱しました。Aは活性化する出来事(Activating event)、Bは信念(Belief)、Cは結果(Consequence)を指します。私たちは、出来事(A)そのものではなく、その出来事に対する受け止め方(B)によって感情が決まる……という考え方です。
例えば、プロジェクトが失敗に終わったとします。その時に「自分は無能だ」と考えれば、絶望感や無力感を感じるでしょう。しかし「今回は失敗したが、次はこうすればうまくいくはずだ」と考えれば、失敗を糧にして前に進むことができます。
大切なのは、出来事を客観的に見つめ、建設的な信念を持つことなのです。
レジリエンスを高める「成長マインドセット」とは!?
失敗に直面した時、それを跳ね返す力となるのが「レジリエンス」です。「回復力」や「弾性」とも言われるレジリエンスの高い人は、困難な状況からより早く立ち直ることができます。
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授は「成長マインドセット」と「固定マインドセット」という概念を提唱しました。
「固定マインドセット」を持つ人は、能力は生まれつきのものであり、変えられないと考えます。失敗を自分の能力不足の証明だと捉え、チャレンジを避ける傾向にあります。
一方「成長マインドセット」を持つ人は、努力によって能力を伸ばせると考えます。失敗はまだ能力が足りないだけであり、学びのチャンスだと捉えます。
「成長マインドセット」を持てば、レジリエンスが高まり、困難な状況でもあきらめずに挑戦し続けることができるのです。
限界にチャレンジする時に、失敗はつきものです。しかし、失敗と向き合う時間があるからこそ、私たちは成長できるのだと信じています。皆さんもきっと、過去の失敗を通じて、何かを学んできたと思います。その学びを無駄にせず、むしろ糧として生かすことが大切なのです。
挫折や失敗は、成長のチャンスでもあるのです。それを前向きに捉え、困難に立ち向かう勇気を持ち続けてください。今、がんばっているあなたを、心から応援しています。
文/越川 慎司
全員が専業禁止、週休3日の株式会社クロスリバーの代表取締役社長。800社超の働き方改革を支援している。仕事のタイパを上げるオンライン講座の実施は年間400件以上。自著29冊、最新刊『最速で結果を出す超タイパ仕事術』(小学館)が好評発売中。