忙しさを察してもらうことで好感度は高まる
かくも同僚たちからの評判が悪く、それどころか周囲に悪影響を及ぼしかねない〝忙しいアピール〟なのだが、友人と呼べるほどの間柄の発言であれば、大目に見てもらえるかもしれない。
先日、筆者が夕食に訪れた飲食店で、近くの席にいた女性2人組が仕事の話をしていたのだが、先輩格と思われる1人が仕事の忙しさについて語っていた。仕事の段取りが悪い上司や同僚の悪口を交えながら自分に任される仕事が増えるばかりだと嘆き、その口調はどんどん激しさを増していった。
もう1人はおおむね黙って聞いていたのだが、ひとしきり話し終えたところでその後輩格は「最近何か楽しいことありましたか?」とさりげなく質問したのだった。先輩格は不意打ちにあったように一瞬黙り込み、その後、話題が一変していったのである。
この一件を傍で聞いていて〝忙しいアピール〟対策としてなかなか有効な手だと感服した次第だ。まずは仕事の話を止めさせないことには、この先輩はどんどんエスカレートしてしまいそうであったのだ。
このように先輩思いの出来た後輩がいれば〝忙しいアピール〟の害悪を周囲に撒き散らさずに済むのかもしれないが、いずれにしても自分から忙しさを口に出してしまうことが印象を悪くしているようだ。
本当に忙しい人物であれば、敏感な者なら接した時にすぐに気づくかもしれないし、すぐにはわからなくとも後で思い返してみてその人物の忙しさを理解することもあるだろう。
口に出さないままこのようにして理解された場合、往々にしてその人物は本当に忙しく有能な存在であると見なされるようだ。自分から訴えるのではなく、相手に察してもらうことで、その人物の忙しさと有能さ、そして好感度が高まるのである。
したがって何らかの理由で〝忙しいアピール〟をしたい場合は、相手に察してもらえるように、忙しさを暗に示すサジェスチョンをそれとなく匂わせるというライフハックが成り立つ。とはいえ効果的に働かせるためには場合によってはあまり褒められそうにはない策士的なテクニックも必要になってくるのだろう。
また決して自慢するのではなく、切実に人の助けを求めているがゆえについつい〝忙しいアピール〟をしてしまうというケースもあるかもしれない。その場合はアピールではなく、やはり具体的な話を通じて協力を仰ぐべきなのだろう。特に人手不足の昨今、漠然と人手を募るのではなく、まずは時間や報酬などを具体的に話し合うことが求められるのではないだろうか。
適度な忙しさは認知機能を向上させて能力を発揮しやすくするという利点もある。しかし忙しすぎることは精神的にも肉体的にも明らかに問題であり、〝忙しいアピール〟をする前に根本的な解決策を模索していかなくてはならない。
※研究論文
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/peps.12645
※参考記事
https://news.uga.edu/stress-bragging-may-make-you-seem-less-competent-less-likable-at-work/
文/仲田しんじ