ニーズあってこその仕事であり、忙しいのは褒められこそすれ咎められる筋合いはないわけだが、その忙しさを自分から口に出すのは控えたほうがよさそうだ。自慢気に〝忙しいアピール〟をする者は同僚から能力が低く見られ、好感度が低下する傾向が最新の研究で報告されている。
〝忙しいアピール〟は当人にも組織にもマイナス
ランチタイムや夜の飲食店で仕事の話をしている2人組やグループを見かけることがあるが、不躾ながら話の内容に聞き耳を立てていると、その中に今の自分の仕事の忙しさを強めに訴えている人物がいたりもする。
その話をさらによく聞いてみれば単なる愚痴や相談というわけでもなさそうで、求められている自分を自慢するニュアンスが含まれていそうなのである。仕事に追われていることでテンションが上がっているのか、往々にして熱弁をふるっていたりもする。
こうした発言は〝忙しいアピール〟ということになりそうだが、このような物言いをする者のことを周囲は実は苦々しく思っていることが最新の研究で報告されていて興味深い。当人にとって忙しいことは誇らしいことであるかもしれないが、聞かされている側にはこの人物の能力が低く感じられ、そして好感度も低下しているのである。
米ジョージア大学テリー経営学大学院の研究チームが今年3月に「Personnel Psychology」で発表した研究によれば、仕事のストレスについて話すのは、自分が優れていることを証明したいからかもしれないが、それが裏目に出ることが多いことを示唆している。
360人が参加した実験では、会議から戻ったばかりの架空の同僚の発言を聞き、その同僚の好感度、能力、職場で同僚を助ける可能性が評価された。
その同僚の発言は「忙しいのに仕事がもう1つ増えました。私はすでに最大限にストレスを感じています。私がどれほどストレスを感じているか、あなたにはわからないでしょう」という内容であった。
収集した回答を分析した結果、参加者はこの同僚の好感度と能力を著しく低く評価していることが明らかになった。またこの同僚はほかの同僚を助ける可能性は低いと評価された。〝忙しいアピール〟は周囲に悪い印象を与えてしまっているのである。
従業員218人を実際に調査した研究でも同様の結果を得たのだが、〝忙しいアピール〟をする同僚を持つ従業員は、個人的なストレスや燃え尽き症候群のレベルが高いとの報告が多いことも明らかになった。つまり〝忙しいアピール〟をする者は周囲のストレスレベルを高めているのである。
これは「ストレスのクロスオーバー効果(stress crossover effects)」と呼ばれ、ストレスの高い者は支援を受ける可能性があると共に、支援提供者側がこの効果によって悪影響を受ける可能性もまたあるのだ。ネガティブな感情が伝染することは組織にとっても大きな問題になり得る。
〝忙しいアピール〟が複数の人物から行われている組織は忙しくストレスのある仕事状況が当然であると見なされ、燃え尽き症候群や離職が増えやすくなる。〝忙しいアピール〟は当人ばかりでなく、組織にも悪影響を及ぼす可能性があることは広く共有されるべきなのだろう。