アクセンチュアの最新調査結果によると、生成AIに人間中心のアプローチを採用して、責任ある使用と大規模な導入を行なうことで、今後15年間でアジア太平洋地域において、年間GDP成長率の0.7%増に相当する4兆5000億ドルに及ぶ経済価値を生み出す可能性があることが判明したという。
この経済価値は、AIを積極的に導入する一方で、人材や作業プロセスへの十分な投資が行なわれなかった場合に生じ得る経済価値の2倍に相当する。
本稿では同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
主な調査結果は以下のとおり。
日本はAI導入により2038年までにGDP年間成長率が0.9%増加
・アジア太平洋地域全体の労働時間の33%が、生成AIによる自動化や人と組織の能力の拡張を通じて、生産性の向上につながる。オーストラリアと日本の労働時間がそれぞれ45%と44%で最も影響を受け、中国(33%)とインド(31%)がこれに続く。
・アジア太平洋地域のビジネスリーダーの96%は、生成AIの影響の大きさを認識しており、また、同地域の労働者の91%は、生成AIを用いて働くための新しいスキルの習得に意欲的であると回答。
その一方で、生成AIのトレーニングを大規模に展開しているビジネスリーダーはわずか4%となっている。同様に、アジア太平洋地域の企業の89%は今年、生成AI技術への支出を増やす予定である一方で、人材育成への投資を優先しているのは35%に過ぎないという結果も得られている。
・生成AIによる自動化や能力の拡張を通じて、最も大きな影響を受ける業界は、労働時間の71%が影響を受けると推定される証券業界と、66%が影響を受けると推定されるソフトウェア&プラットフォーム業界だ。これに銀行(64%)、保険(62%)、小売(49%)の各業界が続いている。
・日本では、労働時間の44%は、生成AIによる自動化や人と組織の能力の拡張がなされると推定される。その結果、2038年までにGDP年間成長率が0.9%増加して、経済価値が7280億ドル増加すると見込まれている。
アクセンチュアの成長市場担当CEOであるレオ・フラミール(Leo Framil)氏は、今回の結果について次のように述べている。
「生成AIは、データとAIが主導する企業変革を加速させています。しかし、その可能性を十分に活かすには、リーダーはAIを単なるプロセスの再設計やコスト効率化のためのツールとは考えず、企業、人々、そして社会における価値創造の機会として捉えるべきです。
世界経済成長の原動力であり、世界人口の50%以上を占め、グローバルのテクノロジーとイノベーションエコシステムにおいて重要な役割を果たすアジア太平洋地域は、生産性および持続可能な成長を促進するために、人間を中心とした責任あるAI導入の道を示す機会があるのです」
またアクセンチュアの執行役員で、AIセンター長である保科 学世氏は、こう話す。
「日本において、労働時間の44%は、生成AIによる自動化や人と組織の能力の拡張がなされると推定されており、この数値はアジア太平洋地域全体での数値(33%)よりも高くなっています。
また今回の調査で、人間中心のアプローチが極めて重要であることが明らかになりました。人間中心のアプローチによってもたらさられる7,280億ドルの追加の経済価値を生み出すためにも、AI技術の導入と共に、人材育成を強力に推進する必要があります。
企業は、業務、ワークフロー、労働力の変革を進めることではじめて、AIの本当の価値を引き出すことができるのです」
生成AIの可能性を十分に引き出して活用するために
アクセンチュアは、生成AIの可能性を十分に引き出して活用するために、以下のステップを踏むことを推奨している。
■新しい方法で指導して、学ぶ
AIが実現する未来において効果的な指導を行ない、信頼を構築するためには、指導者はこれまでとは異なる方法で指導し、古い考え方に固執せず、新たな知識を学ぶ必要がある。
リーダーはテクノロジーに精通し、業務の流れに学習を組み込むことで、より効果的な学習方法へ変革することが重要となる。
■業務を再構築する
ワークフロー全体を見直すことで、リーダーはAIが最も効果を発揮できる領域を特定し、企業全体の効率とイノベーションを向上させるためのビジネス目標と整合させ、持続可能かつ効果的な方法でサイロ化を解消できる。
そこから、顧客により良いサービスを提供して、さらに従業員をサポート。しビジネス成果を達成するために、業務をどのように変える必要があるかに焦点を合わせることができる。
■人員配置の最適化
業務の進め方の変化により、ダイナミックかつ適応力のある人員配置が求められており、企業は人材面でも継続的な再創造を優先して行なう必要がある。
テクノロジーの利用拡大とともに、企業は衰退した役割から新たな役割へ、スムーズな移行を促進するため、スキルマッピングなどのツールやテクノロジーを一層活用する必要がある。
また、業務や役割の変化に伴い能力が向上するにつれて、より価値の高い活動に時間と人員を充てることが可能になる。
■従業員の準備
企業は、従業員がマーケットニーズに対応したテクノロジースキルや機械と協働するスキルを習得するための投資を行なう一方で、ソフトスキルも重要になる。
また、従業員が機械に教え、「教えることで学ぶ」モデルが浸透しつつあるい。リーダーは信頼関係を強化するため、どの段階でも従業員の声に耳を傾け、積極的な関与を促す必要がある。
調査概要
アクセンチュアは、AIによって影響を受けるとみられる労働時間と、それに伴うGDPへの影響を推定するため、アジア太平洋地域の5大経済圏のうち、オーストラリア、中国、日本、インドの4か国のデータを調査した。
1. 業務をタスクごとに分類し、自動化と人と組織の能力の拡張の可能性に応じてタグ付け(人間による検証を伴う機械学習を使用)の実施。
2. 経済文献を参照し、現在のAIに基づき、節減される総時間を計算。
3. (過去の傾向とスキル構成の類似性に基づき)変化する可能性の高い職務を調査。
4. イノベーション、導入ペース、人員配置の転換の進み具合という3つのパラメータを考慮し、企業によるAI導入に関する様々なシナリオを構築。
5. 各シナリオにおける各地域のGDP成長率(2023~2038年)をモデル化(ベースラインのGDP成長率予測と比較)。
関連情報
https://www.accenture.com/jp
構成/清水眞希