DIME MAGAZINE
全上場企業の財務状況や業績予想を網羅した『会社四季報』には、成長する企業のヒントが詰まっている。3000以上もの企業情報を30年にわたり俯瞰してきた〝伝説の編集長〟がその読み解き方を直伝！
「夏号だけ」はもったいない季節ごとの役割を知ろう
上場企業を様々な角度から分析した『会社四季報』は、多くの投資家から愛されている。四半期ごとに刊行されており、多くの投資家は3月期決算企業の決算報告が書かれた夏号が本命だと考えている。しかし、長年同誌の編集長を務めた山本隆行さんは「本来1年を通して読むもの」だと異を唱える。
「秋号は第1四半期決算の発表後に出ます。つまり、競馬でいう第1コーナーのラップタイムがわかる。夏号しか買わない人は、秋でラップタイムが予想より速かった会社に気づかないわけです」
新春号では、第2四半期時点で伸びた企業や失速した企業が見えてくるというわけだ。
「その次に出る春号は3月発売だけど、すぐに決算が来てしまう。当然、投資家は新しい期にしか興味がないんですよ。だから、春号には今期のまとめと来期の予想が半々で書かれています。例えば今期赤字でも、来期V字回復するかもしれない。そうした企業を見極めるのに、春号は最適ですね」
誌面で紹介される企業情報は多岐にわたり、初心者がいきなりすべてを読み解くのは難しい。山本さんは、まず前号比矢印・会社比マークから読むのをオススメする。
「前号の『四季報』と会社発表のそれぞれと比較して、強くなっているか弱くなっているかがパッと見てわかります。マークが2つ付いている会社はものすごく強い会社ですね」
また、なじみ深い企業は業績などのイメージがしやすい。実際の数字が頭に入りやすいだろう。
「例えばホンダのメインとなる事業は構成比63％の4輪車ですが、その下に書かれた利益率を見ると0％になっている。実は構成比17％の2輪車が一番儲けていて、しかも海外で売れています。だから業績解説記事でも『ドル箱2輪』という表現になっているんですね。記事後半では脱エンジンについて書いてあって、4輪車が次に伸びる可能性を考察しています。企業や業界だけでなく、為替や世界情勢までふまえて業績を考察するのに必要な情報が揃っています」
〝株式投資の羅針盤〟をうまく読みこなして、次の成長企業や分野を見つけ出してほしい。
『会社四季報』とは？
東洋経済新報社が1936年に創刊した企業情報誌で、全上場企業の企業情報を網羅している。特徴的なのが、企業が発信する情報だけでなく、担当記者による取材も行なわれ、その結果をふまえた独自の業績予想や解説記事も掲載されている点だ。企業や業界動向を俯瞰できるため、就活中の学生にも人気。四半期ごとに刊行され、春号は緑色、夏号は青色、秋号はオレンジ色、新春号は赤色の表紙となる。
『会社四季報』元編集長
山本隆行さん
『会社四季報』をはじめ30年以上業界に携わる。著書に『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい』（東洋経済新報社）。
【1】前号比矢印・会社比マーク
忙しい人はここだけでも確認すべし
全部読み込む時間が取れないという人は、前号比矢印・会社比マークだけでも読むといいだろう。上段には前号の『四季報』との比較、下段には会社が発表した計画に対する比較がそれぞれ「矢印マーク」と「ニコちゃんマーク」で記載されている。会社の好調・不調が一目で把握できるため、流し読みの際に役立つ。
【2】会社基本情報
まずどんな会社か知るべし
会社の基本的な情報はここで確認しよう。特色には主な事業や歴史、会社の特徴が、連結事業には各事業構成比と売上高利益率が書かれている。特に売上高利益率はその会社の強みがわかるため、ぜひ押さえておきたい。
【3】【4】業績・材料記事／業績数字
業績解説は『四季報』ならでは
『四季報』最大の特徴が、【3】と【4】の業績に関連する情報だ。【3】には会社が発表した業績に加え、担当記者の独自取材に基づいた予測の数字も掲載されている。【4】は記者による各業績予想の具体的な解説記事となっており、前半は業績に対する説明、後半は株価に影響しうる要素について考察したものだ。見出しはその内容を一言で要約したもので、前半の業績説明に関する見出しは、過去業績や前号『四季報』予想との比較で決められる。
【5】財務
売上高＜時価総額の企業は優良
財務関連の情報は専門性が高く読み解くのが難しいが、初心者でもわかりやすい指標として山本さんオススメの項目が時価総額だ。「時価総額が売上高より高い企業は市場の評価が高い、つまりいい会社ということです。オリエンタルランドや日本取引所グループなど、替えが利かない企業だと時価総額が売上高の10倍以上になっていることもあります」（山本さん）
【6】株主・役員など
外国人持ち株比率は要チェック
株主や役員もまとめられており、会社としての安定性を測る指標。注目は外国人の持ち株比率。これが高いと海外からも期待されている優良企業と判断できる。
【7】資本異動、株価推移、特集など
時勢に合わせた「特集」を見よ
「会社四季報」の中では珍しい、毎号時勢に合わせて変わる「特集」の項目がある。当該号では【生産性比較】と【採用】欄がそれに当たる。
【8】株価チャート・株価指標
PERを見るべし
株価の動きはここで確認できる。注目したいのがPER（株価収益率）。適正値（高値平均と安値平均の間）から上振れすぎていたら売り判断、下振れすぎていたら買い判断と、取引の目安として使える。
取材・文／桑元康平 撮影／木村圭司 図版作成／山本さわ
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