DIME MAGAZINE
世の中にあふれるニュースは、経済に様々な影響を与える。ニュースから株価の動きは予測できるのか？ 2030年までの出来事を例に、専門家がニュースの読み解き方を解説する。
ニッセイ基礎研究所
井出真吾さん
金融研究部主席研究員、チーフ株式ストラテジスト。著書に『40代から始める攻めと守りの資産形成－人生GDPの増やし方』など。
プロも間違うニュース分析、身近な業界から始めよう
株の売買を判断する材料として、ほとんどの人は日々報じられるニュースを頼りにするだろう。では、起こった出来事やニュースはどのように株価へ影響を及ぼすのだろうか。要素として「企業の収益に結びつくかどうか」が重要だと、ニッセイ基礎研究所の井出真吾さんは説明する。
「株価は、投資家たちが企業の財務状況をどう評価しているかを示したものです。もっと厳密にいえば、『会社の収益が向上する』と多くの人が判断した時、株が買われて株価が上がる。だから、どれだけ人類にとって有益なビッグニュースだったとしても、財務諸表（決算書）に影響がなければ、株価は動かないのです」
つまり、株価は売買する人たちの意思や判断が反映されるということだ。しかし、その判断が間違っていた場合、それも反映されてしまい、間違った反応を示すこともあるのだ。
「例えば良いニュースが出て株価が跳ね上がるけど、時間とともに落ち着くパターン。逆に良いニュースなのに株価がしばらく反応せず、時間がたってから少しずつ株価に織り込まれていくパターンもあります」
どのようなパターンであれ、いずれ株価は適正水準に着地する。そのため、初出のニュースが株価をすべて左右するとは限らないのだ。
「情勢や為替の動きなども含め、幅広い視点で俯瞰的に情報を拾うことが必要です」
具体的に、どのようなニュースが株価へと影響を及ぼし得るのだろうか。
「例えば2024年3月、JR東海がリニア中央新幹線の27年開業を断念した後、JR東海の株価は下落しました。その後、リニア開業に反対していた静岡県知事が辞表を提出しましたが、そのニュース自体ではまだ株価に影響があるかはわからない。本命は、次の知事が推進派か消極派のどちらになるかだと思います。重要なのは、ニュースそのものに加えて、対象となる業界や企業に影響する要素がどこにあるか見極めることです」
しかし、こうしたニュースの影響度を正しく評価するのは、プロのアナリストでも困難だという。
「ましてや一般の方がいきなり会社の将来の財務状況を予想するのはちょっとハードルが高いですよね。そこに資産を投じるのは、投資ではなく投機。確率は五分五分だと思ったほうがよいでしょう」
それでも光る原石を見つけたいという人には、身近な業界からアプローチするのを井出さんはオススメしている。
「それこそ、自分が仕事をしている業界でもいいと思います。例えば自動車業界に勤めているとします。業界内で昨今起きた大きなニュースといえば、EUがエンジン車の発売を35年以降も認める方針にしたことが挙げられます。これは日本の業界人は大方予想していたそうです。業界内にいると地の利があるので、それを生かさない手はありません。また、いろいろな分野の人とつながりを作るのも有効な手段です」
ニュースに限らず、業界分析をするうえで大事なのは、イメージを膨らませることだ。
「連想ゲームのように、様々な情報をつなぎ合わせて、お金の流れを想像できるようになると、より楽しめると思います」
ニュースから株価の動きを読み切るのは難しいが、本誌で紹介した様々な情報と組み合わせて、買うべき株を見つけ出してほしい。
ニュースだけで売買の判断をしても、すでに市場は動いていることが多い。だからこそ、先を見通すことが大事だ。
2030年までの未来年表
参考として、直近6年間において株価に影響を及ぼしそうなニュースをピックアップして紹介する。
【2025】
Starlinkが端末と通信衛星を直接リンクする『Direct to Call』のデータ通信・音声通信サービス提供開始
KDDI：日本でStarlinkのサービスを提供
航空会社：旅客機のStarlink活用サービスを今後実装予定
準天頂衛星システム『みちびき』が7機体制に移行
コア：送受信機やモジュールの開発・製造
アイサンテクノロジー：GNSS受信機、専用モニタリングソフトなどの開発・販売企業
JRCモビリティ：国内唯一のGNSSチップ自社開発企業
スマート農業系企業：みちびきを活用した農地管理、健康状態のモニタリングなど
【2026】
都心部で自動運転タクシーの実用化がスタート
本田技研工業：自動運転タクシー開発
タクシー手配サービス：手配先の新たな選択肢として自動運転タクシーを採用する可能性
高齢者向け施設運営企業：デイケアなど自宅と施設の往復用交通手段として活用
ホンダがクルーズ、GMと共同開発中の自動運転専用車両『クルーズ・オリジン』は2026年初頭に稼働予定。
【2027】
リニアモーターカーの東京-愛知間路線開業を予定していたが、24年4月、JR東海が断念
JR東海：リニアモーターカーの運用
日本車輌製造、日立製作所：リニアモーターカーの開発
不動産、ホテル企業：沿線駅の開発、住宅地の整備など
最高時速約500km。品川～名古屋間を40分で運行する。
岐阜県飛騨市に素粒子ニュートリノの観測施設「ハイパーカミオカンデ」が完成
クラレ：光センサーの破損防止用アクリル板を製造
オルガノ：超純水装置の製造
アドテック プラズマ テクノロジー：高周波電源装置の技術開発
富士通：実験解析システムを提供
浜松ホトニクス：光電子増倍管の製造
【2028】
アンモニア燃料を使用したアンモニア輸送船の導入がスタート
日本郵船、ジャパンエンジンコーポレーション、IHI原動機、日本シップヤード：アンモニア燃料アンモニア輸送船の建造
つばめBHB：小型分散型アンモニア製造プラントを開発している東京工業大学発のベンチャー企業
IOWN技術の確立・導入により、データ転送容量が現在の約125倍に向上する
NTT：IOWN技術開発を主導
医療機器メーカー：IOWNを活用した遠隔手術技術の開発
コンシューマーゲーム機メーカー：IOWNを活用したオンラインプレイ技術の開発
【2029】
成田空港で3本目の滑走路を新設し、広さ1.9倍へ。旅客施設もワンターミナル化
ヒューリック：1000億円で大型物流施設を整備
物流系企業：成田空港関連の物流量増加
ホテル企業：旅客数増加による需要増加
バス・タクシー企業：旅客数増加による需要増加
完成すると、航空機の発着回数は現在のおよそ1.7倍となる年間50万回に増える予定だ。
提供／成田国際空港株式会社
【2030〜】
大阪IRが開業する
大林組、大成建設：施設建造など
セガサミーホールディングス：カジノ向け機器やリゾート事業の運営など
杉村倉庫、櫻島埠頭：夢洲（ゆめしま）に土地や倉庫を保有
JR西日本：交通インフラの整備
KNT-CTホールディングス：IR関連ツアーなど旅行業の活発化
6G技術が実用化される
京セラ：高周波用プリント基板の開発
ソニー：高速不揮発性メモリ技術の開発
住友電気工業：高周波デバイスの開発
NEC、富士通：6G対応クラウドサービスの開発
NTT：光伝送システムの高度化
スマホ開発企業：6G通信対応端末の開発
取材・文／桑元康平
※掲載している情報は4月25日時点のものです。
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