「下請けいじめ」是正へ、自動車業界で進む価格転嫁の取り組み状況に注目
複数の取引先が関わるサプライチェーンは、自動車産業に限らず多くの産業で「二次取引以降の取引をすべて認知することは困難」という声も聞かれるなど複雑化しており、大手企業でも全容把握が難しい。
自動車産業でもこれまでサプライチェーン全体での価格転嫁を推進し、発注側として積極的に声がけもしていたとみられるものの、三次・四次・五次と連なるサプライヤー企業の取引内容までこうした「号令」の影響が及びにくかったことが、結果的にサプライチェーン末端の中小下請け企業で価格転嫁が進まない一因となった可能性がある。
日本自動車工業会(自工会)は5月23日、部品メーカーを束ねる日本自動車部品工業会と連携して自動車産業のサプライチェーン全体で適正な取引を推進することを表明した。
そのなかで原材料費やエネルギー費の上昇に対し適切なコスト増加分の全額転嫁を目指すことや、自工会が策定している「適正取引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」にもこうした方針を盛り込むなど、自動車産業の頂点となる自動車メーカーが一丸となって適正な取引環境を実現する姿勢を明確に示した。
今後は、これまで把握が難しかったサプライチェーン末端の企業にも、必要なコスト増分の価格転嫁を促す動きが高まるとみられる。自工会のこうした取り組みが、幅広い業界でサプライチェーン全体の価格転嫁を実現するモデルケースとなるか注目される。
[※1] 商流圏~売上高依存度推計データ
帝国データバンクが特許を取得した「個別企業間の全取引シェアを推計するモデル(NIHACHI)」を用いて、任意の頂点企業における商流上(サプライチェーン)の傘下企業や取引企業において、各社の売上高が頂点企業にどの程度依存しているかを算出(特許取得済)したデータ。
頂点企業の直接取引先(一次取引先、Tier1)だけではなく、頂点企業と直接取引がないTier2(二次取引先)以降の間接取引でも売上高依存度を把握でき、頂点企業との取引額を推計できる点が特徴。
[※2] 国内自動車メーカー8社
トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、スズキ、マツダ、SUBARU、三菱自動車工業、ダイハツ工業。
[※3] サプライチェーン(SC)企業
上記「個別企業間の全取引シェアを推計するモデル」を用いて、任意の頂点企業に対して売上の1%以上を依存している企業。
[※4] 自動車産業の価格転嫁動向
帝国データバンクが実施した「価格転嫁に関する実態調査(2024年2月)」(調査期間:2024年2月15日~29日、調査対象:全国2万7443社で、有効回答企業数:1万1,267社[回答率41.1%])のうち、自動車産業に属する企業で回答があった約1500社(有効回答企業数の約13%)を分析した。なお、同調査は企業の取引全般に関する価格転嫁について調査しており、特定の取引等に対して回答したものではない。
関連情報
https://www.tdb.co.jp/index.html
構成/清水眞希