部下の能力を少し上回る結果点の設定がポイント
皆さんは何らかのテレビゲーム(あるいはスマホゲーム)に取り組んだ時、「ステージが難しすぎる」「敵が強すぎる」「すぐゲームオーバーになる」という理由で、そのゲームをやらなくなってしまったことはありませんか?
人は、自分の能力をはるかに上回るハードルに直面したとき、「どうにかしてクリアしよう」という思考にはなりにくく、不安や絶望を覚え、諦める選択をすることが多くなります。また、もし、そのゲームが「簡単すぎる」「敵が弱すぎる」というレベルの場合、人は退屈してしまい、これもまたそのゲームをやらなくなってしまうことに繋がります。
つまり、人が集中力を発揮するには、自分の能力を少し上回るゴールの設定が必要になるわけです。
一方、さらに上の上司(あるいは会社)から降りてくる責任の大きさを見たとき、自身の部下に対して「部下の能力を少し上回るゴール設定」をすること自体ができないケースが大半ではないかと思います。部下全員がそのゴールに到達したとしても、上司自身が持つ「チームを勝たせる責任」を果たせない事象が生じるからです。このため、部下自身にも相応に高いゴール設定をすることになりますが、その時に大事なことは、ゴールに向かうためのスモールゴールとして結果点を設定し、そのスモールゴールを「部下の能力を少し上回る水準」に設定することです。
結果点を打つのが上手いSLAM DUNKの安西先生
映画の大ヒットで再注目を浴びたバスケットボール漫画の金字塔「SLAM DUNK(スラムダンク)」。
湘北高校バスケ部の安西先生は結果点を打つのが非常に上手い人です。
湘北高校が怪物・魚住純と天才・仙道彰を擁する陵南高校を神奈川県予選最終戦で破り、インターハイ出場を決定した後、主人公の桜木花道を除いたメンバーは静岡代表常誠高校へ乗り込んでの合同合宿に向かい、桜木だけ湘北高校の体育館に残され、ジャンプシュートが課題であると安西先生に告げられました。しかし、桜木には迷い(戸惑い、疑念)が生じていました。
安西先生『インターハイまであと10日。その間はこのシュートだけを徹底的にやる。徹底的に。そのために桜木君はここで合宿です。』
桜木花道「は……入るようになるのか…!?』 【出典・引用】井上雄彦「SLAM DUNK 22巻」
こうした中、安西先生は桜木の県予選のビデオを見せつつ、桜木がきわめてゴールに近い位置からしかシュートできないという事実を伝え、逆にそれが入るようになったらどうなるかをイメージさせました。その後…
桜木花道「オヤジ…何をやったらいいんだ?」
安西先生『ほっほっ』『シュート2万本です』
桜木花道「2万で足りるのか?(ニヤリ)」 【出典・引用】井上雄彦「SLAM DUNK 22巻」
安西先生は桜木に対してゴールイメージを持たせた上で、ジャンプシュート2万本という結果点を打ちました。そして、桜木は何をやれば良いのかが明確になり、迷いがなくなったわけです。どうやればジャンプシュートが入るようになるのか、自分の能力をはるかに上回っていてイメージがわかない。でも、とにかく2万本打てば入るようになるなら、「やってやる!」と集中することができるようになったのです。
結果点の精度を確かめる方法
ゴールだけ示せば勝手にそこに向かって進み、到達してくれる部下もいるかもしれません。しかし、そうでない部下が多いのが実情であるはずです。そのため、部下が集中できるであろう結果点を打ちます。そして、打った結果点の精度に問題がないかどうかを確かめる必要があります。
実際のところ、ビジネスの場面で桜木のように、上司に対して「架電30件で足りるんですか?」と部下は言ってきません。なので、上司が打った結果点に対し『まず(次に)何やる?』と部下に確認します。この言葉をかけて具体的な(期限と状態が明確な)行動がスラリと部下の口から出てきたなら、結果点を「部下の能力を少し上回る水準」に設定できたということの証左となるため、上司が打った結果点の精度はひとまずOKです。そのまま走らせて下さい。
結果点の精度最適化はフロー状態に入るための条件
この結果点の精度が最適化されると、部下はフロー状態に入ることがあります。フロー状態とは、「時を忘れるくらい、完全に集中して対象に入り込んでいる精神的な状態」のことを示します。そして、フロー状態に入るためには、「フロー」の提唱者であるミハイ・チクセントミハイが掲げている通り、以下の7つの条件の幾つかを満たす必要があります。
(1) 目標の明確さ(何をすべきか、どうやってすべきか理解している)
(2) どれくらいうまくいっているかを知ること(ただちにフィードバックが得られる)
(3) 挑戦と能力の釣り合いを保つこと(活動が易しすぎず、難しすぎない)
(4) 行為と意識の融合(自分はもっと大きな何かの一部であると感じる)
(5) 注意の散漫を避ける(活動に深く集中し探求する機会を持つ)
(6) 自己、時間、周囲の状況を忘れること(日頃の現実から離れたような、忘我を感じている)
(7) 自己目的的な経験としての創造性(活動に本質的な価値がある、だから活動が苦にならない)
【出典・引用】
識学総研 フロー状態に入る7つのコツ|チクセントミハイの「フロー理論」をわかりやすく解説
“ミハイ・チクセントミハイ:フローについて” TED 2004.
これらすべてを上司のマネジメントで実現することは難しいかもしれませんが、(1)・(2)・(3)は結果点の打ち方により、その条件を満たすことが可能であると言えます。
部下がフロー状態に入った時点で、何をやるべきかが明確な状態であることに加え、迷いや不安がなくなって目の前のことに没頭するため、結果点をクリアすることが単なる通過点でしかなくなります(良い意味で手段が目的化します)。そして、結果点をクリアすることでモチベーションが高まり、フロー状態を維持したまま次の結果点、最終的にはゴールに突き進みやすくなります。
部下の集中力を最大化させ、フロー状態に導く結果点を試行錯誤しながら打ち続け、部下・組織ともに成長感・進行感を生じさせて下さい。それがさらなる部下と組織の安定的な成長に繋がっていくはずです。
この記事はマネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」による寄稿記事です