コロナ禍から回復しつつある外食市場。客足が少しずつ戻り、売り上げがある程度見込めるようになった今、経営課題の改善・解決を目指す経営者は少なくないだろう。
リクルートが運営するグルメ情報サイト「ホットペッパーグルメ」および外食市場に関する調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」はこのほど、全国の飲食店経営者11,029人を対象に2024年3月、デジタルツールの導入への興味・関心と導入状況・導入後の効果に関するアンケート調査を実施し、その結果を発表した。
飲食店経営者のデジタルツールを導入することへの興味・関心は前回より減少し43.1%
現在、飲食店は、コロナ禍からの立ち直りフェーズにあるものの、人手不足や仕入れ価格の高騰など、別の課題にも直面している。その課題解決手段の一環としてのデジタルツール導入については、今回の調査では飲食店経営者の43.1%が興味・関心があるという回答を寄せ、前回調査(2023年3月)と比べると、その数値は2.4ポイント減少、前々回調査(2022年3月)と比べると0.4ポイントの増加となっている。
前回よりも関心度がやや下がっている原因としては、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行して以降、飲食店への客足が戻る中で、課題が複雑化して単純にツールが持つ機能だけで解決できるイメージがしづらかったり、人手不足等を背景に現場の業務負荷が増大し、中長期的な課題解決に向けての方策に手が回らない状況も考えられそうだ。
いずれかのデジタルツールの導入率は58.3%と2年連続で増加
提示した15のデジタルツールのいずれかを導入している割合は58.3%で、前回調査(57.7%)から微増、前々回調査(55.6%)からも2年連続で増加している。「導入済」と「検討中」の合計スコアで見ると69.5%で、前回調査の67.6%からは増加し、前々回調査(66.0%)と比べても増加となっていることから、デジタルツールの導入はペースが遅めではあるが着実に進んできていると言えそうだ。
既に導入されているデジタルツールとしては「キャッシュレス決済」(40.6%)、「自社ホームページの制作/ローカルビジネス登録サービスの活用」(25.1%)、「POSレジ」(22.3%)がトップ3で、前回調査では3位だった「集客販促ツール」(22.1%)が4位に後退した。
ただし、検討中の割合としては、「集客販促ツール」(11.4%)がトップで、次いで僅差で「経営管理システム」(11.3%)が続いた。いずれのデジタルツールも飲食店経営者の10%前後が導入を検討している状況であることから、今後も多様なデジタルツールが飲食店のオペレーションに組み込まれていくことになると考えられそうだ。
現在の経営課題は、「食材費の削減/最適化」が2年連続で増加し31.9%
現在抱えている経営課題について尋ねた。トップ3に挙がっている課題は、1位「売上UP」(48.0%)、2位「食材費の削減/最適化」(31.9%)、3位「人手不足」(22.5%)であった。前回3位の「顧客満足度UP」(19.0%)は4位へと後退。「食材費の削減/最適化」と「人手不足」は2年連続で課題とする飲食店経営者の割合が増加した。
一方、「売上UP」「顧客満足度UP」は前回と比べると減少しており、新型コロナウイルス感染症の5類移行以降、顧客の獲得よりも店舗のオペレーションやコスト構造に関わる課題の重要度が増してきている状況が浮き彫りとなっている。他に、2年連続でスコアが増加している課題としては、「労働時間の短縮」(15.6%)、「人件費の削減/最適化」(15.5%)でこれらもやはり「人手不足」と相関する項目であった。
いずれかのデジタルツール導入で何らかの効果を感じている経営者は80.8%と前回比微減
いずれかのデジタルツールを導入している対象者に、その効果の実感を聞いた。「何らかの効果あり」は80.8%(前回差ー1.6ポイント)と微減した。引き続き高い水準とも言えるが、課題項目別では「経営数値管理の強化」(前回差ー4.1ポイント)、「売上UP」(前回差ー3.5ポイント)等で減少した。
効果実感の高いツール(中分類)としては、「人事労務管理」(90.1%)、「売上・経費管理」(87.0%)、「店内オペレーション管理」(81.1%)で、こういった分野でデジタルツールの効果が実感しやすいことが分かる。デジタルツールと対象課題の組み合わせで効果実感が高かったトップ3は、サンプル数が少ないツールも含めてではあるが「集客販促ツール」×「売上UP」(56.4%)、「セルフオーダー、スマホオーダー」×「人手不足の解消」(50.0%)、「ハンディ」×「人件費の削減/最適化」(48.5%)であった。
経営課題別に見ると、2年連続で課題に挙げる飲食店経営者の割合が増加した「人手不足」については、上記の通り「セルフオーダー、スマホオーダー」(50.0%)で、「食材費の削減/最適化」については、「オンライン発注システム」(32.1%)でそれぞれ効果を実感しているようだ。
飲食店においてキャッシュレス決済が普及してきており、その比率は直近で43.3%と約半数に迫っている。
リクルートの業務・経営支援サービス「Air ビジネスツールズ」の会計/POSレジアプリ『Airレジ』は、全国の飲食・小売・サービス業において使用されている。その導入店舗を対象に、飲食店でのキャッシュレス決済比率を算出したところ、経年で増加傾向にあり、2024年1月時点では2017年4月時点以来、過去最高の43.3%となっている。
飲食店におけるキャッシュレス決済比率は、国内で新型コロナウイルス感染症が確認された2020年初頭から右肩上がりに伸びており、感染リスク対策として非接触での支払いニーズが高まったことが要因と考えられる。
その増加傾向は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した2023年5月以降も続いている。来店客が一度体験したキャッシュレス決済での支払いが徐々に定着し広がりを見せたことで、未対応だった飲食店が導入を始め、キャッシュレス決済に対応した店舗数が増加したと考えられる。飲食店にもメリットがある。キャッシュレス決済により、釣り銭の用意や受け渡しが不要になり、精算が簡略化。
閉店時のレジ締め作業もスムーズになるため、生産性向上や省人化にもつながる。加えて、決済データが可視化されることで、経営課題の定量把握が可能になり、その改善に向けた投資も検討しやすくなる。こ
うした背景から、本調査の「デジタルツールの導入状況」を見ても、キャッシュレス決済が40.6%と最も進んでおり、飲食店のDX対応における優先順位の高さがうかがえる。
■地域の公的支援を、飲食店DX推進のエンジンに
キャッシュレス決済比率が高い都道府県の上位5位までを見ると、東京都、石川県、沖縄県、神奈川県、千葉県の順であり、東京都のみが50%以上だった。単純に考えれば人口が多いほど非接触対応は必要になり、支払い方法のニーズも多様化するため、キャッシュレス決済を導入する店舗も多いと予想された。
しかし、実際はそうなっておらず、考えられる理由の一つに、各都道府県の導入施策による差が挙げられる。例えば、神奈川県では、2018年の「キャッシュレス都市KANAGAWA宣言」の下、事業者マッチングや普及啓発などを進め、消費者の利便性と事業者の生産性向上を推進している。
基本のDX施策としてキャッシュレス決済を導入しつつ、地域の公的支援などを生かした経営が、飲食店にとって主流になると思われる。キャッシュレス決済が進むことにより、レジ作業の効率化やミス軽減、決済データの可視化といった飲食店のニーズが満たされることに加えて、スムーズで効率的な支払いや決済など来店客のニーズも充足される。そのため、まずはキャッシュレス決済をきっかけに、幅広いデジタルツールがより普及することを期待したい。
<調査概要>
調査名:「飲食店経営者のDX※4に対する興味・関心と導入状況の実態調査」
調査方法:インターネットによる調査
調査対象:全国47都道府県の20歳以上の飲食店経営者(株式会社マクロミル 登録モニター)
調査期間:2024年3月8日(金)~2024年3月12日(火)
有効回答数:1,029件(男性764件、女性265件)
出典:リクルートグループ
構成/こじへい