地元の顔見知りが増えて、絆が深まることに心地よさを感じた
――Tさんがこの活動に参加し始めたのは、まだフルタイム勤務で現役時代ですよね。仕事との両立は、大変ではありませんでしたか?
T:ええ、大変でした(笑)。でも、私は自分の心が動いたことに関してはあまり考えずに、まず行動しちゃう性分なんですよね。入会を誘われたときも、「自分の住んでいる空間が心地よい場所になるならいいなぁ」と思い、軽い気持ちで参加したんです。
だから、会の活動を始めた当初は、物理的にも精神的にもしんどかったですし、戸惑うことも多々ありました。でも、夫も協力してくれましたし、私が主に担当したのは夫とふたりで各種助成金の申請書作成や申請手続き、それに地域への広報活動だったのですが、文書の作成やメールでのやりとりには、編集で得たパソコンのスキルがかなり役に立ちました。
また、大変だと思いつつも、やれば成果が目に見えて、活動の意義も感じられたことが大きかったと思います。活動をしているうちに近所にどんな方が住んでいるのかがわかると同時に、各人にいろいろな能力があるのだというのも知って心強かったです。また、ご近所に顔見知りも増えて、挨拶をするような方が増えていったことが心地よかったんですよね。だから、活動をやめようと思ったことはありませんでした。
カフェの運営は「まちづくりの会」の活動資金のため
――その上、さらにカフェを開いたのですよね? きっかけは何だったのでしょう?
T:カフェを開いたのは2017年からです。「防災の会」は1年、「まちづくりの会」は3年、練馬区の助成金をもらって活動をしていました。多くの自治体が出している助成金がそうなのですが、もらえる期間は限られていて、最終的には「自立が求められる」のです。
そこで、活動資金を得るためにカフェをつくることになったんです。
――とはいえ、自宅を開放するのは、なかなかの覚悟がなければできない気がします。
T:その言葉、皆さんからよく言われます(笑)。とくに近所に住んでいる娘からは、「防犯上、大丈夫なの?」とずいぶん心配されました(笑)。でも、そう言われても、あまり突き詰めて考えなかったんですよね。カフェオープンの目的は活動資金を得ることもありましたが、地域コミュニティの拠点のひとつになれば、という思いも大きかったですね。
――どのようにして、カフェのオープンまでこぎつけたのでしょうか?
T:このときは、「生活クラブ」生協グループのNPO法人の助成金を利用させていただきました。「まちづくりの会」の会員の方で「生活クラブ」を利用なさっている方がいて、その方が使える助成金制度があることを教えてくれたのです。いまは行政や団体がさまざまな助成金を出しているんですよね。「まちづくりの会」の活動で得た経験をもとに助成金申請をして、認可されたのです。
保健所の営業許可をもらうためのキッチンのリフォーム、調理器具などの調達は、助成金で賄いました。一方で、椅子やテーブル、食器などは、知り合いが提供してくれたり、メンバーが持ち寄ったりしました。営業は毎週火曜日と、第1・3土曜日で、「まちづくりの会」の数名が中心となって行っています。料理やデザートをつくる人、お掃除をする人、サービスをする人など、それぞれ係を決めて運営しています。
近隣に住むクリエイター作品や障がい者福祉施設で作られた作品も販売されている。
メンバーのさまざまなスキルが集結してカフェがオープン!
――開店までに大変だったのは、どんなことですか?
T:やはり、助成金の申請書の作成ですね。申請書にはいくら助成金が必要かを、見積もりをとらないとならないのです。改装費は業者さんに頼んで相見積もりが必要でした。調理器具はインターネット上で選んだ商品データを添付しました。
また、メニューに関してはみんなで話し合って決めました。メンバーにはスイーツづくりが得意な人やカレー料理が得意な人など、各人の主婦としての料理の腕が活きました。私は、料理作りとともに、食関連の編集者での経験を活かして、メニューのチラシや撮影なども担当しました。メニュー構成などにも、編集で得た知識が少しですが活きたかもしれません。
「まあるカフェ」のメニュー。ドリンク以外に、軽食やスイーツも多彩に用意されている。
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現役時代からまちづくり、カフェの開店までのエネルギッシュなストーリーを少しずつ思い出しながら、懐かしそうにポツポツと語るTさん。後編では、開店から7年続くカフェ運営の秘訣を伺います。
COMMUNITY SPACE「まあるカフェ」
営業日:毎週火曜日・第1・第3土曜日
営業時間:午前11時~午後3時30分(L.O.3時) ※長期休暇の際は営業日の変更もあり。
取材・文/山津京子