妻が35歳以上でも、夫は治療した方がよい?
――永尾先生は長年、男性不妊の治療に携わっていますが、どんな検査や診察をするのか、簡単に教えてください。
永尾先生 病院によって診察のやり方や検査はいろいろ異なりますが、ほとんどの場合、初診時には、問診と診察があり、検査は精液検査、ホルモン採血、超音波検査を行います。
採血では、一般検査の他にホルモン検査、必要に応じて抗精子抗体、染色体を調べています。そして、超音波検査は、精索静脈瘤・精巣腫瘍の有無などを検査します。
――「胚培養士ミズイロ」では、女性が年齢を重ねて焦る姿がとてもリアルに描かれています。年齢はシビアな問題ですね。
永尾先生 妊娠において女性の年齢は重要です。自然妊娠率は25歳の女性に比べると、35歳で50%、38歳で25%、40歳以上で5%以下になってしまいます。男性不妊治療だけでなく、奥さまの年齢が若くとも(特に35歳以上は)婦人科治療も並行して行うことをお勧めします。
また、「妻が35歳以上でも、夫は治療した方がよいでしょうか?」と聞かれることがありますが、精液所見や精子のDNA損傷など、精子の質が改善すると自然妊娠、人工授精、体外受精、顕微授精の成績が改善します。妻の年齢が35歳以上でも、男性不妊治療も並行して行うことをお勧めします。
男性妊活に良くない3つの行為
――最後に、日常生活で男性が普通にやっている、「妊活に良くない行動」を教えてください。
永尾先生 身体が整うサウナが人気ですが、精子をつくる精巣は、熱に弱いです。股間を高熱にさらすことは、精子をつくる造精機能に悪影響を及ぼします。子どもを望むなら、高温のサウナは避け(やめられなければ冷たい濡れタオルを陰部に当てる)、長風呂はほどほどにした方が良いでしょう。
同じように、膝上での長時間のパソコン使用もあまり良くない行動です。パソコンは使用していると次第に熱を発します。膝の上に置いて使えば、股間へとその熱が伝わり、熱に弱い精子は打撃を受けます。ノートパソコン利用が陰嚢の温度上昇につながるという研究データもあります。
もう一つ、育毛剤も妊活中は避けた方が良いです。AGA(男性型脱毛症)の治療薬のうち、フィナステリドを主成分とする治療薬には、男性ホルモン作用の強いジヒドロテストステロンを抑える働きがあります。つまり、抜け毛といっしょに男性ホルモン作用もブロックされてしまうのです。
また、副作用として、性欲減退や精子数の減少、ED(勃起不全)などが起こることがあります。妊活中は、このタイプの育毛剤は避けた方が無難ですね。
――ありがとうございました。
MIDSのサイトでは男性不妊の原因疾患、その診断法、治療についてや、現在までの活動内容が掲載されているのでぜひ参考にして欲しい。
センター長 医学博士
教授 永尾光一 先生
専門領域は男性不妊症、性機能障害、小児泌尿器科、尿道再建術、膀胱瘤。昭和大学で形成外科学を8年間専攻、その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し両方の診療科部長を経験。得意な分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域(主に陰茎・陰嚢)の形成外科的手術。趣味はサッカー・野球観戦。小学館文庫「正しいバイアグラ」など著書多数。
文/柿川鮎子